外国籍の相続人がいる遺産分割協議書の作り方を名古屋の司法書士が解説
2026/10/16
はじめに|不動産にも預貯金にも、必ずこの1枚が必要です
協議書の出来ひとつで、あとの手続き全部のスピードが決まります。
相続した家の名義変更(相続登記)でも、銀行口座の凍結解除でも、遺言がない場合に必ず提出を求められるのが遺産分割協議書です。「だれが何を相続するか」を相続人全員の合意として証明する、相続手続きの心臓部といえる書面です。
外国籍の方の相続では、この協議書づくりに特有の壁があります。海外にいるきょうだいは日本語が読めない。印鑑証明書が取れない相続人がいる。本国の書類と日本の住民票で名前の表記が違う――どれも実務では日常的に出会う問題で、正しい対処法がきちんと用意されています。
この記事では、名古屋のごとう司法書士事務所が、外国籍の相続人がいる遺産分割協議書の作り方を、つまずきやすいポイントに絞ってやさしくご説明します。
遺産分割協議書とは|なぜ全部の手続きでこの1枚を求められるのか
「全員が合意した」ことを証明できる唯一の書面だからです。
亡くなった方が遺言を残していない場合、だれが何を相続するかは、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。その合意内容を書面にしたものが遺産分割協議書で、相続人全員が署名し、実印を押して印鑑証明書を添えることで、「全員がこの内容に合意した」という証明になります。
法務局は、この協議書がなければ話し合いによる相続登記を受け付けませんし、銀行も原則として協議書(または銀行所定の用紙への全員の署名)がなければ払い出しに応じません。つまり協議書は、不動産・預貯金・株式、すべての手続きの共通の入口です。
外国籍の方の相続で大切なのは、協議の前提となる「相続人がだれか」が本国法で決まるという点です。たとえば韓国籍の方の相続なら韓国民法上の相続人全員で協議する必要があり、ひとりでも欠けた協議書は無効です。協議書づくりは、本国書類による相続人の確定とワンセットで考えてください。
「協議書を作るのが大変だから、とりあえず法律どおりの割合(法定相続分)で登記してしまおう」という方もいますが、これはおすすめできません。全員の共有名義になった不動産は、売るにも貸すにも全員の同意が必要になり、結局あとから協議と登記のやり直しが必要になるからです。遠回りに見えても、最初に協議書で分け方を決め切るのが、いちばんの近道です。
何語で作る?|日本語で作成し、海外の相続人には訳文を添える
提出先は日本の役所や銀行。だから本文は日本語が基本です。
遺産分割協議書を何語で作るかに法律上の決まりはありませんが、提出先が日本の法務局や銀行である以上、日本語で作成するのが実務の基本です。外国語で作った場合は日本語訳の添付を求められるため、最初から日本語で作るほうが合理的です。
一方で、海外に住むきょうだいなど、日本語が読めない相続人に日本語だけの書面を送って「ここに署名して」とお願いするのは、不信感のもとです。内容を理解しないまま署名した書面は、あとで「聞いていた話と違う」という紛争の火種にもなります。
そこで実務では、日本語の協議書本体に、韓国語・中国語・英語などの参考訳を添えてお送りする方法をとります。訳文はあくまで理解のための参考として添付し、署名は日本語の本体にもらう形にすれば、提出先との関係も相続人の安心も両立できます。当事務所では、この参考訳の準備や、海外の相続人あての手続き説明文の作成までお手伝いしています。
書き方のポイント|財産の特定・分け方の文言・予備の条項
「どの財産を」「だれが」「どう取得するか」を一義的に書き切ります。
協議書の本文で最も大切なのは、財産の特定です。不動産は住所(住居表示)ではなく、登記簿のとおりに所在・地番・家屋番号・床面積まで書き写します。マンションなら敷地権の表示も必要です。預貯金は銀行名・支店名・科目・口座番号で特定します。この特定が甘いと、法務局や銀行で「どの財産のことか分からない」と差し戻されます。
分け方の文言にも型があります。家を売って代金を分ける場合は、換価分割であることを明記します(これを書かないと、代表者から他の相続人への分配金が贈与と疑われるおそれがあります)。特定の相続人が家を取得して他の相続人にお金を払う場合は、代償分割としてその金額と支払時期を書きます。
忘れずに入れたいのが、あとから財産が見つかった場合の条項です。「本協議書に記載のない財産は、相続人〇〇が取得する」などと定めておけば、後日、古い口座や株が出てきても協議をやり直さずにすみます。外国籍の方の相続では本国に財産があることも想定されるため、この条項の書き方はご家族の状況に合わせた設計が必要です。
はんこが押せない相続人がいるとき|署名の3つのパターン
印鑑証明書が取れなくても、協議書は完成させられます。
協議書の署名まわりは、相続人の住まいと登録の状況で3つのパターンに分かれます。
1つ目は、日本に住んでいて印鑑登録をしている方。日本人と同じく、実印を押して印鑑証明書を添付します。外国籍の方でも、住民登録をしていれば市区町村で印鑑登録ができます。
2つ目は、海外に住んでいる方。印鑑証明書が取れないため、協議書への署名を現地で認証してもらうサイン証明(署名証明)で代用します。日本人なら現地の日本大使館・領事館、外国籍の方なら現地の公証人の認証(国によってはアポスティーユ付き)が基本です。協議書の原本を国際郵便で送り、認証を受けて返送してもらう段取りになるため、往復で数週間を見込みます。
サイン証明には、証明書だけを単独で発行してもらう形式と、協議書そのものに綴り合わせて署名ごと認証してもらう形式があります。相続登記に使う場合は協議書との綴り合わせ型を求められるのが原則ですので、「どの書類に、どちらの形式で」認証を受けるかを先に確認してから現地へ送ることが、取り直しを防ぐ重要なポイントです。
3つ目は、日本に住んでいるけれど印鑑登録をしていない方。まず印鑑登録をするのが早道ですが、事情があって難しい場合は、本国の領事館でサイン証明を受ける方法を検討します。
だれがどのパターンかを最初に仕分けし、時間のかかる海外組から先に動かすのが、協議書を早く完成させる段取りのコツです。印鑑証明書やサイン証明には提出先ごとに有効期限の扱いがあるため、署名を集める順番は期限からの逆算で設計します。
名前の表記ゆれに注意|通名・本名・ハングルと漢字の「同一性」
「同じ人なのに名前が違って見える」が、外国籍の相続最大の落とし穴です。
外国籍の方の相続書類では、同じ人の名前が書類によって違う表記で現れます。韓国の家族関係証明書はハングル、日本の住民票は漢字やカタカナ、古い書類には通名(日本名)、サイン証明はローマ字――これらが「全部同じ人」だと証明できないと、法務局も銀行も先へ進めてくれません。
対策は、表記のつながりを示す書類を揃えることです。住民票には本名と通名の記載があり、閉鎖外国人登録原票には通名の履歴が残っています。本国書類と日本の書類の橋渡しには、こうした記録を組み合わせ、必要に応じて「同一人である」ことの上申書を添えます。
協議書そのものの署名欄も、提出先の書類と一致する表記で統一しておくことが大切です。住民票がカタカナ併記ならその表記に合わせる、サイン証明を使う方はその証明書の表記に合わせる、という具合に、「どの書類のだれと一致させるか」を最初に決めてから署名してもらうと、取り直しを防げます。
よくある不備とやり直し|法務局・銀行で止まるパターン
不備のやり直しは、全員からの署名のもらい直しを意味します。
協議書の不備で怖いのは、1か所の誤りでも相続人全員の署名と押印をもらい直しになることです。海外の相続人がいれば、国際郵便の往復からやり直しです。実際によく止まるパターンを挙げます。
不動産の表示が登記簿と一致していない(住所で書いてしまった、持分の記載漏れ)。亡くなった方や相続人の氏名・生年月日が本国書類と食い違う。協議書が複数ページなのに契印(ページのつなぎ目の押印)がない。署名はあるのに日付が抜けている。相続人のひとりが未成年や認知症で、本来必要な代理人(特別代理人・成年後見人)を立てずに署名している――。
とくに外国籍の方の相続では、本国書類で確認できる情報と協議書の記載の整合が厳しくチェックされます。作成前に「この協議書で法務局と全部の銀行を通せるか」という目で点検しておくことが、結果的にいちばんの時短になります。当事務所では、作成から各提出先との事前確認までまとめてお引き受けしています。
なお、話し合いそのものがまとまらない場合、協議書は作れません。連絡を重ねても合意できないときは、家庭裁判所の遺産分割調停という場で解決を図ることになります。また、こうした苦労を次の世代に残さないためのいちばんの方法は、ご自身の相続に向けて遺言を準備しておくことです。遺言があれば、そもそも協議書なしで手続きを進められます。協議書づくりを経験した方ほど、ご自身の遺言の大切さを実感されます。
まとめ|1枚目から完璧な協議書で、全手続きを一気に進める
協議書は作り直しがいちばん高くつく書類。最初から専門家と作るのが近道です。
遺産分割協議書は、相続登記にも預貯金の手続きにも必ず通る関門です。日本語で作成して海外の相続人には参考訳を添えること、財産を登記簿や口座情報のとおりに特定すること、換価分割や後日判明財産の条項まで設計すること、署名は実印・サイン証明・印鑑登録の3パターンで仕分けること、そして名前の表記ゆれを最初に整理すること――この5点を押さえれば、1枚の協議書で全部の手続きを一気に進められます。
逆に、不備があれば全員の署名のもらい直しです。海外の相続人がいるご家族ほど、最初から専門家と作ることをおすすめします。ご相談の際は、固定資産税の納税通知書、分かる範囲の口座のメモ、相続人のお住まい(国)の一覧があれば、その場で協議書の設計図と署名の段取りをお示しできます。
名古屋のごとう司法書士事務所は、外国籍の方の協議書の作成、参考訳の準備、海外とのやり取りの段取りまで、数多くお手伝いしてきました。話し合いがまとまる前の「どう分けるのがいいか」という設計のご相談からでも大丈夫です。
▶外国籍の相続人がいる遺産分割協議書のご相談は、名古屋のごとう司法書士事務所へ。フリーダイヤル0120-290-939、またはごとう相続手続き相談センターからお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年10月時点の法令・制度・実務の取り扱いに基づいて作成しています。協議書の必要書類や署名の方法は提出先や国籍によって異なりますので、実際のお手続きの際は専門家にご確認ください。