最終更新:2026年11月5日(2026年11月時点の法令・運用にもとづいています)
「親が遺した名古屋の家を、海外に住む私たちきょうだいで売りたい」「相続人の一人が帰国してしまい、売却の手続きが止まっている」――外国籍の方や海外在住の方が関わる相続では、相続登記が終わっても、売却でもう一山あります。売主が海外にいると、契約書の署名、決済の立会い、売却代金の送金、税金の源泉徴収など、日本国内の売却とは違う段取りが必要だからです。
このページでは、司法書士と宅地建物取引士を兼ねるごとう司法書士事務所が、相続登記から売却・代金の分配までの流れ、海外在住の売主に必要な書類、非居住者が売主になるときの源泉徴収と確定申告の考え方、空き家の特例の概要を、ひとつながりでご説明します。税金の細かな要件や金額は提携税理士が個別に確認します。

まず押さえておきたい3つのこと
- 相続した不動産は、相続登記で相続人名義にしてからでないと売れません。相続人が複数いて売却代金を分ける場合は、代表者名義にして売る「換価分割」を遺産分割協議書に明記します。
- 売主が海外在住の場合、売買契約と所有権移転登記には署名証明(サイン証明)や現地公証、住所を証明する在留証明や公証付きの住所証明が必要です。日本の代理人に委任して決済する方法が一般的です。
- 売主が非居住者のときは、買主が売買代金の10.21%を源泉徴収して納付するのが原則です(一定の居住用の取引では不要になる場合があります)。売主は翌年に日本で確定申告をして精算するのが基本で、国内の納税管理人を通じて行います。
目次
相続登記から売却までの全体の流れ
- 相続人の確定と遺産分割協議(1〜3か月)本国書類や戸籍で相続人を確定し、誰の名義にして売るか、代金をどう分けるかを協議書にします。海外在住の相続人は署名証明を付けて署名します。
- 相続登記(2〜4週間)法務局に申請し、相続人名義にします。相続登記は相続を知った日から3年以内に申請する義務があります。
- 査定・媒介契約・販売活動(1〜3か月)当事務所(宅地建物取引業)または提携業者が査定し、販売を始めます。海外の売主とはメール・ビデオ通話で連絡します。
- 売買契約(1日)海外在住の売主は、委任状と署名証明を使って日本の代理人が契約する方法が一般的です。
- 決済・所有権移転登記(契約から1〜2か月後)買主から代金を受け取り、同日に所有権移転登記を申請します。非居住者の売主の場合は、買主が源泉徴収した残額を受け取ります。
- 代金の分配・海外送金・確定申告(決済後〜翌年3月)換価分割の場合は協議書どおりに分配します。非居住者は翌年に納税管理人を通じて確定申告をします。
全体で半年〜1年程度が目安です。相続登記と売却を別々の窓口に頼むと、海外からの書類の取り寄せが二度になるため、当事務所では最初から売却までを見据えて書類を一度にそろえます。
誰の名義にして売るか(換価分割)
相続人が複数いて「売って代金を分けたい」場合、全員の共有名義にして全員が売主になる方法と、代表者一人の名義にして代表者が売り、代金を分ける方法(換価分割)があります。海外在住の相続人がいる場合は、日本在住の相続人を代表者にする換価分割が手続きの負担を大きく減らします。
| 方法 | 売主 | 海外在住の相続人の負担 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 共有名義で売却 | 相続人全員 | 契約・決済ごとに署名証明や委任状が必要 | 人数分の書類が必要。一人でも連絡が取れないと売れない |
| 換価分割(代表者名義) | 代表相続人のみ | 遺産分割協議書への署名証明のみ | 協議書に「売却して代金を○:○で分配する」と明記し、贈与と誤解されないようにする |
換価分割では、登記の名義を代表者一人にまとめた場合でも、税金は名義人だけでなく代金を受け取る各相続人に関係してくるのが一般的な考え方です。そのため、代金を受け取る海外在住の相続人にも、日本での申告が必要になることがあります。名義人と実際の分配内容をふまえ、税務上の扱いを提携税理士と確認したうえで、協議書の分配割合や分割方法(換価分割か代償分割か)を決めます。
海外在住の売主に必要な書類

日本の不動産売却では、売主の印鑑証明書と住民票(登記上の住所と現住所をつなぐ書類)が必要です。海外在住で日本に住民登録がない方は、次の書類で代えます。
- 署名証明(サイン証明):日本国籍の方は在外公館で、売買契約書や委任状に対する署名証明を取ります。外国籍の方は、現地の公証人の認証(+アポスティーユ)または本国の印鑑証明書を使います。
- 住所証明:日本国籍の方は在外公館の在留証明。外国籍の方は、現地の公証人が認証した住所の宣誓書や、本国の住民登録に相当する証明書を使います。
- 委任状:日本の代理人(ご家族や当事務所)に売買契約・決済を委任する場合。署名証明を付けます。
- 本人確認:宅地建物取引業法と犯罪収益移転防止法にもとづき、パスポートの写しなどで本人確認を行います。ビデオ通話での確認も併用します。
- 登記上の住所の変更:登記簿の住所が日本の旧住所のままの場合、海外の現住所への住所変更登記が必要です。2024年4月からは、海外に住む所有者は国内連絡先の登記も求められます。
署名の集め方の詳細は「海外在住の相続人がいる相続(サイン証明・公証)」をご覧ください。
非居住者の売却にかかる税金(源泉徴収・確定申告)
売主が日本の非居住者の場合、買主は売買代金を支払うときに10.21%を源泉徴収して税務署に納付し、残りを売主に支払うのが原則です。売主は翌年に日本で確定申告をして、実際の税額と源泉徴収額を精算します。申告の結果、還付になる場合もあれば追加で納付する場合もあり、必ず戻ってくるものではありません。
- 源泉徴収が不要になる場合:買主が個人で自分や親族が住むために買う一定の取引など、源泉徴収が不要とされる場合があります。該当するかは契約前に提携税理士と確認します。
- 納税管理人:非居住者が日本で確定申告をするには、日本国内の納税管理人を選んで税務署に届け出る必要があります。提携税理士が納税管理人を務めることができます。
- 取得費:相続した不動産の取得費は、原則として亡くなった方が買ったときの価格を引き継ぎます。契約書が見つからず取得費がわからないと税額が大きくなることがあるため、古い書類を探すことが大切です。
- 居住国での課税:売却益は、売主が住んでいる国でも課税対象になることがあります。二重課税の調整ができる場合もあるため、居住国の税務専門家にもご確認ください。
- マイナンバーがない場合:海外在住でマイナンバー(個人番号)をお持ちでない方も、納税管理人を通じて日本の申告ができるのが一般的です。
源泉徴収は買主の義務のため、売主が非居住者であることを契約前に買主と仲介業者に伝え、決済時の資金の流れを事前に整理しておく必要があります。当事務所が仲介する場合は、この調整も含めてご案内します。
空き家の特例と売却の時期
相続した家が空き家になっている場合、一定の要件を満たせば、売却益から最大3,000万円を控除できる特例(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除)があります。おおまかな要件は次のとおりです。
- 亡くなった方が一人で住んでいた、古い基準で建てられた家(1981年5月31日以前の建築)であること
- 相続してから売るまで、人に貸したり誰かが住んだりしていないこと
- 相続から一定期間内に売ること(適用期限も定められています)
- 売却代金の上限、耐震改修や取壊しに関する条件など、細かな要件があること
要件は細かく、売却の進め方(取り壊すか、そのまま売るか、誰の名義で売るか)によって使えるかどうかが変わります。売却の時期と方法を決める前にご相談ください。特例が使えるかどうかの判断と申告は提携税理士が行います。
売却代金の海外送金と分配
- 日本の口座がある場合:決済代金は売主の日本の口座に入金し、売主がご自身で海外送金する流れが一般的です。帰国時に口座を解約している方も多いため、早めに確認します。
- 日本の口座がない場合:代理人の口座で受け取って送金する方法もありますが、金融機関のマネーロンダリング確認が厳しく、送金の目的や相続の経緯を示す書類(遺産分割協議書、売買契約書など)を求められます。
- 換価分割の分配:遺産分割協議書に「換価分割のため便宜上代表者名義で相続登記を行い、売却代金は○:○の割合で分配する」旨を明記したうえで、代表相続人が受け取った代金を各相続人に送金します。協議書と送金記録を残し、代表者から他の相続人への贈与と誤解されないようにします。
- 海外送金の報告制度:一定額を超える海外送金は、金融機関から税務署などに報告される制度があります。金融機関から資金の出所や送金目的を確認されることもあるため、遺産分割協議書や売買契約書で相続・売却の経緯を説明できるようにしておきます。送金額や送金先の国によって必要な手続きが変わるため、事前に金融機関へ確認します。
よくあるケースと進め方(例)
※以下は、よくあるご相談をもとにした進め方の例です(実際の事案を特定するものではありません)。
ケース1:ブラジル籍の父が遺した名古屋の空き家、相続人は日本在住の長女とブラジル帰国後の長男
長女を代表者とする換価分割で遺産分割協議書を作り、長男はブラジルの公証人役場で署名認証を受けて返送。長女名義に相続登記をしてから売却し、代金を半分ずつ分けます。換価分割では長男も代金を受け取るため、長男の受け取り分について非居住者としての源泉徴収や日本での申告が必要になるかを確認します。長女が単独で相続して長男に代償金を払う「代償分割」にする方法もあり、どちらが適切か、空き家特例が使えるかも含めて提携税理士と検討します。関連記事:ブラジル籍の親が遺した空き家の相続登記と売却
ケース2:相続人全員がアメリカ在住(日本国籍)
全員が非居住者のため、代表者名義の換価分割にして売主を一人にし、在外公館の署名証明と在留証明を取ります。売買契約と決済は当事務所が代理人として行い、買主は原則として代金の10.21%を源泉徴収します。翌年、代金を受け取る相続人が納税管理人を通じて日本で申告し、精算します。
ケース3:韓国籍の母が死亡、日本の家を韓国在住の子が相続して売りたい
韓国の家族関係証明書で相続人を確定し、韓国在住の子は韓国の印鑑証明書で遺産分割協議と売買契約に対応できます。相続登記の際に国内連絡先を登記し、非居住者として源泉徴収の調整をしたうえで決済します。
外国籍の方の相続・海外在住の相続人がいる相続のご相談は初回無料です。
「本国の書類の取り方がわからない」「相続人が海外にいる」など、まずはお気軽にお話をお聞かせください。
受付時間 9:00〜19:00(土日祝は事前予約で相談可能)/名古屋市中区丸の内三丁目15番3号 TCF丸の内ビル6階
お問い合わせフォーム 無料面談のWEB予約相続した不動産の売却についてよくあるご質問
相続登記をしないまま売ることはできますか?
できません。亡くなった方の名義のままでは買主に名義を移せないため、必ず相続人名義にする相続登記を先に行います。売却を前提に、相続登記と売却の書類を一度にそろえるのが効率的です。
海外にいるまま、日本に来ずに売れますか?
はい。署名証明付きの委任状で日本の代理人に契約・決済を任せる方法が一般的です。当事務所が代理人となることもできます。本人確認はパスポートの写しとビデオ通話で行います。
非居住者の源泉徴収10.21%は戻ってきますか?
翌年に日本で確定申告をして、実際の税額と精算します。税額が源泉徴収額より少なければ差額が還付され、多ければ追加で納付するため、必ず戻ってくるものではありません。申告は国内の納税管理人を通じて行います。
海外に住むきょうだいと連絡が取りにくいのですが、売れますか?
遺産分割協議には相続人全員の合意が必要です。連絡は取れるが来日できないという場合は、換価分割で代表者名義にすれば、その方の関与は協議書への署名のみで済みます。まったく連絡が取れない場合は、不在者財産管理人などの手続きを検討します。
通名名義や旧住所のままの登記でも売れますか?
相続登記の段階で、同一性を証明する書類(帰化後の戸籍、閉鎖外国人登録原票など)を添えて相続人名義にすれば売却できます。詳しくは「帰化した方がいる相続」をご覧ください。
仲介手数料や司法書士費用はどのくらいですか?
仲介手数料は宅地建物取引業法の上限(売買価格400万円超の場合、価格の3%+6万円+消費税)の範囲内です。相続登記・住所変更登記・所有権移転登記の報酬と合わせて、売却前に事前のお見積りをお出しします。
※本ページは一般的な情報提供を目的としたものです。当事務所は相続人の調査、遺産分割協議書の作成、相続登記、不動産売却に伴う登記手続きを担当し、相続税・譲渡所得税などの税務判断、税額計算および税務申告は提携税理士と連携して対応します。海外の税制については、必要に応じて現地専門家への確認をご案内します。具体的なご事情については、お気軽にご相談ください。