最終更新:2026年11月5日(2026年11月時点の法令・運用にもとづいています)
外国籍の方の相続で一番大変なのは、本国の書類を集めて、海外にいるご家族の署名をそろえる作業です。これは生前に遺言を作っておくだけで大きく減らせます。「日本の家は妻に」「預金は子どもたちに」と書いた公正証書遺言があれば、残されたご家族は遺産分割協議なしで手続きを進められます。
このページでは、ごとう司法書士事務所が、外国籍の方が日本で遺言を作るときのルール、本国法の遺留分との関係、公正証書遺言の作り方(通訳・証人・必要書類)、遺言以外の生前対策(生前贈与・任意後見・生命保険)を、国際結婚のご夫婦や日本で家を買った外国籍の方の目線でご説明します。

まず押さえておきたい3つのこと
- 外国籍の方でも、日本の公証役場で公正証書遺言を作れます。日本で作った遺言は、日本の方式に従っていれば方式として有効です(遺言の方式の準拠法に関する法律)。
- ただし、遺言で何をどこまで決められるか(遺留分など)は本国の法律で判断されます。韓国・台湾・中国・ブラジル・フィリピンなどには、日本とは違う遺留分のルールがあります。
- 日本語が十分でない方は通訳人の立会いが必要です。必要書類は在留カードまたはパスポート、印鑑登録をしていれば印鑑証明書、財産の資料、受け取る方の身分を示す書類です。
目次
外国籍の方の遺言はどの法律で判断される?
遺言には「方式」と「内容」の2つの面があり、それぞれ判断する法律が違います。
| 何を判断するか | 適用される法律 | 外国籍の方への意味 |
|---|---|---|
| 遺言の方式(書き方・証人など) | 行為地法・本国法・住所地法などのいずれかに合っていれば有効 | 日本で日本の方式(公正証書・自筆証書)で作れば有効です |
| 遺言の成立と効力(能力・意思表示) | 遺言をしたときの本国法(通則法37条) | 遺言できる年齢などは本国法で判断します |
| 遺言の内容(誰に何を残せるか、遺留分) | 相続の準拠法=原則本国法(通則法36条) | 本国の遺留分が日本の財産にも及ぶことがあります |
本国の法律が「不動産の相続は所在地の法律による」と定めている国(中国・ベトナム・アメリカの多くの州など)では、日本の不動産については日本の民法で内容を判断します(反致)。この場合、日本の家に関する遺言は日本の遺留分ルールで考えます。どの国がどちらかは、渉外相続ガイドのトップの国別早見表をご覧ください。
国別の遺留分と遺言で決められる範囲
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障される取り分です。遺言で全財産を一人に残しても、ほかの相続人が遺留分を請求できる場合があります。主な国の考え方は次のとおりです。
| 国 | 遺留分の考え方 | 遺言を作るときの留意点 |
|---|---|---|
| 日本 | 配偶者・子・直系尊属に法定相続分の1/2(直系尊属のみは1/3)。兄弟姉妹にはなし | 配偶者と子の遺留分を意識した配分にします |
| 韓国 | 配偶者・直系卑属は1/2、直系尊属は1/3。兄弟姉妹の遺留分は2024年の憲法裁判所決定で失効 | 日本とほぼ同じ感覚で作れます。本国の財産も遺言で指定できます |
| 中国 | 日本型の遺留分はなく、労働能力がなく生活の糧のない相続人のために必要な遺産を残す「必留分」のみ | 日本の不動産は日本法(反致)なので日本の遺留分に注意 |
| 台湾 | 直系血族卑属・父母・配偶者は1/2、兄弟姉妹・祖父母は1/3(特留分) | 兄弟姉妹にも遺留分がある点が日本と違います |
| ブラジル | 子・親・配偶者などの「必要相続人」に遺産の1/2を保障 | 自由に処分できるのは1/2まで。配偶者の持分(夫婦財産制)も先に確認 |
| フィリピン | 嫡出子・配偶者・非嫡出子などに法定の取り分を強く保障 | 自由に処分できる部分が小さく、遺言の設計に専門家の確認が必要 |
| ベトナム | 未成年の子・父母・配偶者・労働能力のない成年の子は、遺言にかかわらず法定相続分の2/3を保障 | 日本の不動産は日本法(反致)。預金などはベトナム法の保障に注意 |
| アメリカ | 原則として遺留分の制度はなく(ルイジアナ州を除く)、配偶者の選択的相続分などで保護 | 日本の不動産は日本法。州ごとの違いは現地専門家と確認 |
※各国の制度は概要です。実際の遺言の設計では、本国法の最新の内容を確認したうえでご提案します。
日本の公正証書遺言の作り方

外国籍の方には、紛失や無効のリスクが小さい公正証書遺言をおすすめしています。公証人が日本語で作成し、原本は公証役場に保管されます。
- 財産と希望の整理日本と本国の財産を一覧にし、誰に何を残したいかを整理します。本国の遺留分との関係もここで確認します。
- 遺言の文案作成当事務所が日本語の文案を作り、必要に応じて母国語の訳文を添えてご確認いただきます。
- 公証役場との打合せ文案と必要書類を公証人に送り、日程を調整します。通訳人が必要な場合は手配します。
- 当日:公証役場で作成証人2名の立会いのもと、公証人が内容を読み聞かせ(通訳人が訳し)、遺言者・証人・公証人が署名押印します。
必要書類(主なもの)
- 本人確認書類:在留カード、特別永住者証明書、パスポートなど。印鑑登録をしていれば実印と印鑑証明書(3か月以内)。
- 財産の資料:不動産の登記事項証明書・固定資産税の納税通知書、預金通帳の写しなど。
- 受け取る方の資料:相続人であれば続柄がわかる書類(本国の家族関係証明書、出生証明書、日本の戸籍など)、相続人以外であれば住民票など。
- 証人2名:推定相続人やその配偶者などはなれません。当事務所の司法書士が証人を務めることができます。
公正証書は日本語で作成されるため、遺言者が日本語を十分に理解できない場合は通訳人を立ち会わせる必要があります。通訳人はご家族以外の方で、相続で利益を受けない方にお願いします。費用は別途かかりますが、「内容を理解していなかった」という後日の争いを防ぐ大切な手続きです。
国際結婚のご夫婦の遺言のポイント
日本人と外国籍の方のご夫婦では、どちらが先に亡くなるかで適用される法律が変わります。日本人の配偶者が亡くなれば日本法、外国籍の配偶者が亡くなれば本国法(反致があれば日本法)です。そのため、ご夫婦それぞれが遺言を作っておくことをおすすめします。
- 日本人の夫が先に亡くなる場合:日本法で妻と子が相続。外国籍の妻が日本の家を相続して住み続けられるよう、配偶者居住権や家の相続を遺言で明確にします。
- 外国籍の妻が先に亡くなる場合:本国法で相続人が決まり、本国の親やきょうだいが相続人に加わることがあります。日本の家について遺言で夫に残すと指定しておけば、本国の家族の署名集めを避けられる場合があります。
- お子さんが未成年の場合:遺言で未成年後見人を指定しておくと、親が二人とも亡くなった場合に備えられます。
- 本国にも財産がある場合:本国の財産は本国で別に遺言を作る方が確実なことがあります。日本の遺言で「日本の財産について」と範囲を限定し、本国の遺言と矛盾しないようにします。
関連記事:日本人×ブラジル国籍夫婦の遺言・生前対策、日本で家を買った外国籍の方へ|万一のとき家はどうなる?
遺言以外の生前対策
相続税と在留資格・永住・帰化の関係
相続税がどの財産にかかるかは、亡くなった方と相続人の双方の住所・国籍・在留資格の組み合わせによって変わります。日本に住んでいる方は海外の財産も課税対象になるのが原則ですが、在留資格の種類や日本に住んだ期間によっては、海外の財産が対象外になる場合があります。永住者や帰化した方はこの扱いの対象になりにくいなど、組み合わせごとに結論が異なるため、個別の確認が必要です。
税額の計算や申告は提携の税理士が担当し、当事務所が登記・名義変更と一体でお手伝いします。永住か帰化かの選択は、相続手続きの手間と税の両面から考える必要があります。関連記事:永住と帰化で相続はどう違う?外国籍の方の選び方
よくあるケースと進め方(例)
※以下は、よくあるご相談をもとにした進め方の例です(実際の事案を特定するものではありません)。
ケース1:中国籍の夫(永住者)が名古屋に家を購入、妻と子は日本在住
中国法は不動産の相続を所在地法に委ねるため、日本の家は日本法で妻と子が相続人です。公正証書遺言で「家は妻に、預金は子に」と定めておけば、妻は遺言と戸籍・在留カードだけで名義変更でき、中国の公証書を集める負担がほぼなくなります。
ケース2:フィリピン籍の妻と日本人の夫、子は未成年
夫が先に亡くなると日本法、妻が先に亡くなるとフィリピン法が適用されます。ご夫婦それぞれが遺言を作り、未成年後見人も指定しておきます。フィリピン法の遺留分が強いため、妻の遺言は自由処分できる範囲を確認して設計します。
ケース3:韓国籍の高齢の方、日本に身寄りが少ない
公正証書遺言に加えて任意後見契約を結び、将来の財産管理と相続の両方に備えます。通訳人を交えて公証役場で作成し、本国の家族関係証明書もこの機会に取り寄せて整理しておきます。
外国籍の方の相続・海外在住の相続人がいる相続のご相談は初回無料です。
「本国の書類の取り方がわからない」「相続人が海外にいる」など、まずはお気軽にお話をお聞かせください。
受付時間 9:00〜19:00(土日祝は事前予約で相談可能)/名古屋市中区丸の内三丁目15番3号 TCF丸の内ビル6階
お問い合わせフォーム 無料面談のWEB予約外国籍の方の遺言についてよくあるご質問
外国籍でも日本の公証役場で遺言を作れますか?
はい、作れます。日本の方式で作った遺言は方式として有効です。日本語が十分でない場合は通訳人の立会いが必要で、当事務所で手配できます。
母国語で遺言を書いても有効ですか?
自筆証書遺言は母国語でも方式として有効になり得ますが、日本の法務局や金融機関に提出するときは翻訳と家庭裁判所の検認が必要で、内容の解釈をめぐる争いも起きやすくなります。日本語の公正証書遺言をおすすめします。
本国の親やきょうだいにも遺留分がありますか?
本国法によります。台湾では兄弟姉妹にも遺留分があり、ブラジル・フィリピンでは自由に処分できる範囲が小さくなっています。一方、日本の不動産については日本法で判断される国も多く、国ごとに整理してご説明します。
本国の財産も日本の遺言で決められますか?
本国法上は可能な場合が多いですが、本国で手続きをする際に日本の公正証書の翻訳・認証が必要になります。本国の財産は本国で遺言を作る方が確実なことがあり、両方の遺言が矛盾しないように設計します。
遺言があれば本国の書類は一切いりませんか?
受け取る方が相続人の場合、亡くなった方との続柄を示す書類は必要ですが、相続人全員の署名や本国の相続人全員分の証明は不要になります。書類集めの負担は大きく減ります。
費用はどのくらいですか?
公証役場の手数料(財産額による)と通訳人の費用のほか、当事務所の文案作成・証人・公証役場調整の報酬がかかります。財産の内容をうかがったうえで、事前にお見積りします。初回相談は無料です。
※本ページは一般的な情報提供を目的としたものです。各国の遺留分制度や税務の取扱いは、事案や時期によって異なる場合があります。税務については提携税理士と連携してご案内します。具体的なご事情については、お気軽にご相談ください。