最終更新:2026年11月5日(2026年11月時点の法令・運用にもとづいています)
愛知県は全国でも特にブラジル籍の方が多く暮らしている地域です。1990年代に来日した世代が高齢期を迎え、「ブラジル籍の父が日本で亡くなり、家の名義をどうすればよいかわからない」「相続人の一人がブラジルに帰ってしまった」というご相談が名古屋でも増えています。
このページでは、ごとう司法書士事務所が、どの国の法律で相続人が決まるのか、ブラジルの証明書(セルチドン)の取り方と認証、ブラジル在住の相続人の署名の集め方、相続した家を売るまでの流れを、ブラジル籍のご家族の目線でご説明します。

まず押さえておきたい3つのこと
- ブラジルの国際私法は「相続は亡くなった方の住所地の法律による」と定めています。日本に住んでいたブラジル籍の方の相続は、日本の不動産も預金も日本の民法で相続人・相続分を決めるのが原則です(反致)。ブラジルに戻って亡くなった方はブラジル民法です。
- ブラジルに戸籍はなく、相続関係は登記所(カルトリオ)が発行する出生・婚姻・死亡証明書(セルチドン)と、相続人の宣誓供述書で証明します。ブラジルはアポスティーユ条約の締約国で、公証翻訳人の訳文を付けた書類が使われます。
- ブラジル在住の相続人は、現地の公証人役場(カルトリオ・デ・ノタス)で署名認証を受けて遺産分割協議書に署名します。日本の印鑑証明書は不要です。
目次
どの国の法律で相続人が決まる?
日本の「法の適用に関する通則法」36条は、相続は亡くなった方の本国法によると定めています。ブラジル籍の方なら、まずブラジル法が指定されます。ところがブラジルの国際私法(民法施行法10条)は、「相続は、財産の種類や所在地にかかわらず、亡くなった方が住所を有していた国の法律による」と定めています。そのため、通則法41条の反致により、次のように整理されます。
| 亡くなった方の最後の住所 | 適用される相続法 | 補足 |
|---|---|---|
| 日本(長く日本で暮らしていた) | 日本の民法 | 日本の不動産・預貯金とも日本法。相続人・相続分は日本人の相続と同じ考え方です |
| ブラジル(帰国後に亡くなった) | ブラジル民法 | 日本に残した不動産・預金の相続人をブラジル民法で判断します |
| 遺言がある場合 | 方式・効力は別途判断 | 日本で作った公正証書遺言は、日本の財産について有効に使えます |
「どこに住所があったか」が分かれ目です。日本に住民登録があり、生活の本拠が日本にあった方は日本法です。帰国と来日を繰り返していた方は、亡くなった時点の生活の実態(住民票、在留カード、家族の居住地、仕事など)から判断します。
ブラジル民法が適用される場合の相続のルール
ブラジルに帰国して亡くなった方の日本の財産や、ブラジルにある財産については、ブラジル民法(2003年施行の現行民法)で相続人が決まります。日本との主な違いは次のとおりです。
- 相続の順位(民法1829条):第1順位は子などの直系卑属と配偶者、第2順位は父母などの直系尊属と配偶者、第3順位は配偶者のみ、第4順位は4親等までの傍系血族。配偶者は原則として常に相続人です。
- 配偶者が子と一緒に相続できるかは、夫婦財産制で変わる:ブラジルでは結婚のときに財産制(共通財産制・部分共通財産制・別産制など)を選び、婚姻証明書に記載されます。たとえば完全共通財産制の夫婦では、配偶者は財産の半分を夫婦共有財産として受け取る一方、子と並んで相続人にはなりません。婚姻証明書の「財産制度(Regime de Bens)」欄の確認が欠かせません。
- 遺留分:子・親・配偶者は「必要相続人」とされ、遺産の2分の1が遺留分として確保されます(1845条・1846条)。
- 相続放棄:公正証書または裁判所での手続きによります(1806条)。日本の家庭裁判所のような3か月の期限制度とは異なります。
- 2003年より前に亡くなった方:旧民法(1916年民法)が適用され、配偶者は子・親がいない場合にはじめて相続人になるなど、順位が異なります。古い名義の不動産では亡くなった日の確認が重要です。
相続関係を証明する書類

ブラジルには日本のような戸籍がありません。出生・婚姻・死亡はそれぞれ別々に、登記所(Cartório de Registro Civil)に記録されます。相続では次の書類を組み合わせます。
- 死亡証明書(Certidão de Óbito):ブラジルで亡くなった場合。日本で亡くなった場合は日本の死亡届記載事項証明書や住民票の除票で証明できます。
- 婚姻証明書(Certidão de Casamento):配偶者であることと、夫婦財産制の確認に使います。
- 出生証明書(Certidão de Nascimento):相続人が子であることの証明に。日本生まれの子は、在日ブラジル総領事館に出生登録をしていればブラジルの証明書が取れます。日本の出生届の記載事項証明書で補うこともあります。
- 宣誓供述書(Declaração):「相続人は○○と○○であり、ほかにいない」ことを、公証人役場や在日ブラジル総領事館で宣誓して作成します。
- 日本側の記録:住民票の除票、閉鎖外国人登録原票、日本人配偶者・子の戸籍など。
ブラジルで発行された証明書には、ブラジル側でアポスティーユ(ブラジルは2016年から条約締約国)を付け、日本語訳を添えます。ブラジルでは公証翻訳人(Tradutor Público)の訳文が広く使われますが、日本の法務局に出す訳文は日本で作成することもできます。
名古屋市中区に在名古屋ブラジル総領事館があり、愛知県にお住まいの方は、出生登録や宣誓供述書、署名認証などの手続きを名古屋で行えることが多く、他の国にくらべて書類集めがしやすいのが特長です。
ブラジル在住の相続人がいるとき
ブラジルに帰国した相続人は日本の印鑑証明書を取れないため、遺産分割協議書にポルトガル語の対訳を付けて送り、現地の公証人役場(Cartório de Notas)で署名認証(Reconhecimento de Firma)を受けてもらいます。その書類にアポスティーユを付けて日本へ返送してもらう流れです。
- 署名は、ブラジルの身分証(RG)やパスポートの氏名と同じつづりで行います。日本の通称名やカタカナ表記とのつながりを示す資料を添えると審査がスムーズです。
- 相続人が未成年の場合、親が代わりに署名できない(利益相反になる)ことがあり、日本の家庭裁判所で特別代理人を選ぶ手続きが必要になることがあります。
- 代償金をブラジルへ送金する場合は、受取口座の情報(銀行コード・口座番号)と送金目的の説明を事前に準備しておきます。
詳しくは「海外在住の相続人がいる相続(サイン証明・公証)」をご覧ください。
相続登記から売却までの流れ
- 相続人と準拠法の整理(1〜2週間)最後の住所、家族構成、夫婦財産制、遺言の有無を確認し、日本法かブラジル法かを判断します。
- 日本側の書類収集(2〜4週間)除票・閉鎖外国人登録原票・不動産の書類など。
- ブラジル側の証明書と翻訳(1〜2か月)セルチドンの取得、アポスティーユ、日本語訳。在名古屋ブラジル総領事館で足りる場合は短縮できます。
- 遺産分割協議・署名集め(2週間〜2か月)国内の相続人は実印と印鑑証明書、ブラジル在住の相続人は署名認証。
- 相続登記と売却(1〜3か月)名古屋法務局への登記申請後、売却をご希望の場合は宅地建物取引士として査定・媒介・決済まで一貫して行います。
ご家族がブラジルへ帰国し、日本の家だけが残るケースが少なくありません。相続登記は相続を知った日から3年以内が義務です。管理が難しい場合は、相続登記と同時に売却の準備を進めるのが現実的です。関連記事:ブラジル籍の親が遺した空き家の相続登記と売却、母国へ帰る前に日本の家はどうする?売る・貸す・持つ
よくあるケースと進め方(例)
※以下は、よくあるご相談をもとにした進め方の例です(実際の事案を特定するものではありません)。
ケース1:日本在住のブラジル籍の父が死亡、妻と子は日本在住
最後の住所が日本なので日本民法が適用され、相続人は妻と子です。親子・婚姻関係は、在日ブラジル総領事館で取得した出生・婚姻証明書と、日本の住民票・閉鎖外国人登録原票で証明します。相続人全員が日本で印鑑登録をしていれば、署名の証明は日本人の相続と同じです。
ケース2:兄がブラジルへ帰国、名古屋の実家を弟が相続して売却
弟が実家を取得し、兄に代償金を支払う内容で合意します。ポルトガル語対訳付きの協議書をブラジルへ送り、現地の公証人役場で署名認証とアポスティーユを取得してもらいます。登記完了後に売却し、売却代金から代償金を送金する流れにすると、資金の準備が楽になります。
ケース3:ブラジルに帰国後に亡くなった母、日本に預金が残っている
最後の住所がブラジルなので、ブラジル民法で相続人を判断します。婚姻証明書で夫婦財産制を確認したうえで、相続人の範囲を確定し、金融機関には準拠法の説明書を添えて手続きします。ブラジル側の相続手続き(インベンタリオ)と並行して進めることもあります。
費用のめやす
ブラジル籍の方の相続登記は、必要な証明書の数、相続人の居住国、翻訳の量によって異なるため、ご相談時に事前のお見積りをお出しします。登録免許税(固定資産評価額の0.4%)や証明書の実費、国際郵便代は別途かかります。相続した不動産の売却まで一貫してご依頼いただく場合は、全体の費用感もあわせてご説明します。関連記事:日本人×ブラジル国籍夫婦の遺言・生前対策

外国籍の方の相続・海外在住の相続人がいる相続のご相談は初回無料です。
「本国の書類の取り方がわからない」「相続人が海外にいる」など、まずはお気軽にお話をお聞かせください。
受付時間 9:00〜19:00(土日祝は事前予約で相談可能)/名古屋市中区丸の内三丁目15番3号 TCF丸の内ビル6階
お問い合わせフォーム 無料面談のWEB予約ブラジル籍の方の相続についてよくあるご質問
ブラジル籍の父が日本で亡くなりました。相続人はブラジルの法律で決まりますか?
日本に住所があった方の相続は、ブラジルの国際私法が住所地法を指定しているため、日本の民法で相続人・相続分が決まります。ただし、相続人であることを証明する書類はブラジルの証明書や宣誓供述書で用意します。
ブラジルの出生証明書はどこで取れますか?
出生登録をした地域の登記所(カルトリオ)で発行されます。日本生まれで在日ブラジル総領事館に出生登録をした方は、総領事館を通じて取得できる場合があります。ブラジルのオンライン発行サービスを利用できることもあります。
証明書にアポスティーユは必要ですか?
ブラジルは2016年からアポスティーユ条約の締約国です。日本の法務局への相続登記では必ずしも求められない場合もありますが、金融機関では求められることがあるため、取得時にまとめて付けておくのが安心です。
ブラジルにいる相続人が日本に来られません。手続きできますか?
できます。対訳付きの遺産分割協議書を送り、現地の公証人役場で署名認証を受けて返送してもらえば、来日は不要です。
日本人の妻がブラジル籍の夫の相続をします。注意点はありますか?
日本に住所があった夫の相続なら日本民法で進められます。夫の出生証明書と、ブラジル側に婚姻登録をしていれば婚姻証明書を取得し、日本の戸籍と組み合わせて相続関係を証明します。
費用はどのくらいですか?
証明書の数や相続人の居住国で変わるため、ご相談時に事前のお見積りをお出しします。初回相談は無料です。
※本ページは一般的な情報提供を目的としたものです。ブラジル法の内容や在外公館・法務局・金融機関の運用は、事案や時期によって異なる場合があります。具体的なご事情については、お気軽にご相談ください。