【名古屋】日本人×ブラジル国籍夫婦の遺言・生前対策|国際相続に強い司法書士兼宅建士が解説
2026/07/03
「私たち夫婦は国籍が違うけれど、相続のとき困らないかしら」
名古屋には、国籍の違うご夫婦がたくさん暮らしていらっしゃいます。日本人の奥さまとブラジル国籍のご主人、あるいは日本人のご主人とブラジル国籍の奥さま。長い年月をともに歩み、名古屋にご自宅を構え、お子さまを育て上げたご夫婦から、当事務所はこんなご相談をいただくことがあります。「夫婦のどちらかが先に逝ったとき、残されたほうは、この家に住み続けられるのでしょうか」「国籍が違う夫婦の相続は、普通の相続と何が違うのですか」――。
じつは、国際結婚のご夫婦の相続こそ、元気なうちの備えがいちばん力を発揮する分野です。相続が始まってからでは選べない道が、生前であればいくつも選べるからです。そしてその備えの中心にあるのが、遺言です。この記事では、日本人とブラジル国籍の方がご夫婦である場合を想定して、遺言がないと何が起きるのか、どんな遺言をどう作ればよいのか、遺言のほかにどんな生前対策があるのかを、司法書士兼宅地建物取引士の立場から、できるだけやさしい言葉でお話しします。名古屋で暮らすご夫婦ならではの事情にも、折々に触れてまいります。
1.国籍の違うご夫婦の相続は「どちらが先に旅立つか」で景色が変わる――準拠法という入口の話
まず、少しだけ理屈のお話にお付き合いください。といっても、結論はとてもシンプルです。
人が亡くなったとき、その相続をどの国の法律で進めるかは、日本の「法の適用に関する通則法」という法律で決まります。その第36条は「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。被相続人(亡くなった方)の国籍の法律に従う、というのが日本の原則です。
ですから、国籍の違うご夫婦では、どちらが先に旅立つかによって、適用される法律の入口が変わります。
日本人の配偶者が先に亡くなった場合は、迷いなく日本の民法で相続します。残されたブラジル国籍の配偶者は、日本人と同じように相続人となり、日本の法定相続分(お子さまがいれば配偶者2分の1、お子さま全員で2分の1)に従って財産を受け継ぎます。「外国籍だと相続できないのでは」とご心配される方がいらっしゃいますが、それはまったくの誤解です。相続人の国籍は問われません。ブラジル国籍のまま、名古屋のご自宅を相続し、ご自身の名義に登記することも当然にできます。
一方、ブラジル国籍の配偶者が先に亡くなった場合は、通則法の原則どおりならブラジル法が入口になります。ただしここで、反致(はんち)という仕組みが働きます。ブラジルの国際私法(ブラジル民法施行法第10条)は「相続は、被相続人が住所を有していた国の法律による」と定めているため、名古屋に長くお住まいだった方であれば、ボールは日本へ投げ返され、結果として日本の民法で相続を進められることが多いのです。当事務所が扱う名古屋のご相談では、このパターンに落ち着くケースがほとんどです。
「それなら、どちらが先でも日本法なのだから、心配いらないのでは」と思われるかもしれません。けれども、国際結婚のご夫婦には、法律の条文だけでは見えてこない、実務のつまずきどころが潜んでいます。
第一に、書類の壁です。ブラジルには日本のような戸籍制度がありません。ブラジル国籍の方が亡くなると、出生証明書・婚姻証明書・死亡証明書(セルチドン)を一つずつ集めて家族関係を証明することになり、日本人同士の相続よりも時間がかかります。相続人の中にブラジル在住のご親族がいれば、署名証明(サイン証明)のやり取りも国境を越えます。
第二に、話し合いの壁です。遺言がなければ、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。ブラジル国籍の配偶者が残された場合、亡くなった日本人配偶者の前婚のお子さまや、疎遠になっているご親族と、言葉や制度の違いを抱えたまま協議する場面も起こりえます。逆に、ブラジル国籍の配偶者が亡くなり、ブラジル本国のご親族が相続人に加わると、協議書への署名一つにも数か月を要することがあります。
第三に、時間の壁です。2024年4月から相続登記は義務になりました。不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記をしないと、正当な理由がない場合、10万円以下の過料の対象になりえます。書類集めと国境を越えた話し合いに時間を取られるほど、この期限は重くのしかかります。
こうした壁は、相続が始まってからでは低くできません。しかし生前であれば、遺言という一枚の書面で、そのほとんどを取り払っておけるのです。次の章で、その具体的な方法をお話しします。
2.遺言は、残される配偶者への何よりの贈りもの――方式の選び方と、デジタル化された公正証書遺言
遺言と聞くと、「うちはそんな財産家ではないから」「縁起でもない」と感じる方が、名古屋にはまだ多くいらっしゃるように思います。堅実で、家のことを表立って話すのを控えめになさる名古屋のご気質かもしれません。けれども、国際結婚のご夫婦にとっての遺言は、財産の多い少ないの話ではありません。残される配偶者を、国境を越えた手続きの負担から守るための、いちばん確実な手立てです。
遺言があると、何が変わるのでしょうか。
もっとも大きいのは、遺産分割協議を省略できることです。たとえば日本人のご主人が「自宅の土地建物と預金は、妻に相続させる」という遺言を残しておけば、奥さまは他の相続人と話し合いをしなくても、遺言に基づいて相続登記や預金の手続きを進められます。相続人の中に海外在住の方がいても、その方の署名や証明書を待つ必要が原則としてなくなります。国境を越えた書類のやり取りが丸ごと不要になる――これは、国際相続の現場を知る者として、声を大にしてお伝えしたい遺言の力です。
では、どんな遺言を、どの国の方式で作ればよいのでしょうか。
遺言の方式については、「遺言の方式の準拠法に関する法律」という法律があり、遺言をした地の法律、遺言者の国籍国の法律、住所地の法律などのいずれかに合っていれば有効とされています。つまり、ブラジル国籍の方が日本で暮らしながら、日本の民法が定める方式で遺言を作ることは、まったく問題ありません。名古屋にお住まいのご夫婦であれば、お二人とも日本の方式で作るのが、後の手続きを考えても自然な選択です。
日本の遺言には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は手軽ですが、書き方の不備で無効になる危険や、家庭裁判所の検認という一手間があります(法務局の保管制度を使えば検認は不要になります)。一方、公正証書遺言は、公証人が関与して作るため方式の不備で無効になる心配がほとんどなく、検認も不要です。国際結婚のご夫婦には、私は迷わず公正証書遺言をおすすめしています。日本語に不安のあるブラジル国籍の方が遺言をする場合には、通訳を介して作成する道も用意されているからです。
ここで、最近の動きにも触れておきましょう。2025年10月から、公正証書の作成手続きがデジタル化されました。ウェブ会議を利用した方式や電子データでの作成・保存が導入され、公証役場に出向く負担が軽くなる方向へ、制度が大きく動いています。日本公証人連合会の発表によれば、令和7年(2025年)に全国で作成された遺言公正証書は12万3,891件。遺言は今や、一部の資産家のものではなく、ごく普通のご家庭の「暮らしの整理術」になりつつあります。この流れは、書類の壁が高くなりがちな国際結婚のご夫婦にとって、追い風といってよいでしょう。
一つ、専門家として付け加えたい注意があります。ブラジル国籍の方が遺言を作る場合、遺言の内容や効力の面で、ブラジル法の考え方が顔を出す場面がありうることです。ブラジルの民法には、お子さまや配偶者に遺産の50%を必ず残さなければならない**レジチマ(必要相続分)**という強い決まりがあり、日本の遺留分より手厚く相続人を守ります。名古屋に住所のある方なら、先ほどの反致によって日本法で処理されることが多いものの、ブラジル国内にも財産をお持ちの場合などは、両国の法律をにらみながら遺言の中身を設計する必要があります。このあたりの見極めは事案ごとに異なりますので、書きぶり一つで結果が変わる遺言こそ、専門家と一緒に作っていただきたいのです。
なお、遺言を作るときは、お二人それぞれが別々の書面で作ります。日本の民法は夫婦が同じ書面で遺言すること(共同遺言)を禁じているためです。「夫婦で一緒に備える。ただし書面は一人一枚」と覚えてください。
3.遺言のその先へ――名古屋の自宅を守る配偶者居住権・おしどり贈与と、資産の「棚卸し」
遺言を整えたら、生前対策はもう一歩先へ進められます。ここからは、司法書士として登記を、宅地建物取引士として不動産取引を扱う立場から、名古屋のご自宅という具体的な資産を守る工夫をお話しします。
まず、配偶者居住権です。2020年に始まったこの制度は、亡くなった方の配偶者が、自宅の所有権を相続しなくても、原則として亡くなるまでその家に住み続けられる権利です。たとえば、ご自宅のほかにまとまった預金がないご家庭で、自宅の所有権をお子さまに、住む権利(配偶者居住権)を残された配偶者に、と分ける形を遺言で決めておけば、配偶者は住まいを失う不安から解放され、預金もいくらか受け取りやすくなります。外国籍の配偶者にももちろん使える制度で、登記をすることで第三者にも主張できるようになります。この登記はまさに司法書士の仕事です。
次に、いわゆるおしどり贈与です。婚姻期間が20年以上のご夫婦なら、自宅(または自宅を買うための資金)を配偶者に贈与したとき、贈与税の計算で基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できる特例があります。長年連れ添ったご夫婦が、元気なうちに自宅の名義を配偶者へ移しておく選択肢で、国籍は問いません。ただし、不動産取得税や登録免許税は贈与のほうが相続より重いこと、相続まで待てば小規模宅地等の特例など別の軽減もあることから、贈与が本当に得かどうかは資産全体を見て判断する必要があります。ここは税理士とも連携しながら、慎重に見立てます。
そしてもう一つ、私が国際結婚のご夫婦にぜひおすすめしたいのが、資産の棚卸し――つまり、いま持っている不動産をこの先どうするかを、元気なうちに夫婦で話し合っておくことです。
名古屋の不動産市場は、全国的に見れば値崩れの少ない堅実な市場です。しかし長い目で見れば、日本全体で若い世代が減って住まいの買い手は細り、団塊の世代の高齢化とともに空き家として市場に出る家は増えていきます。不動産の値段は、投資家が買う投資用の価格と、住むために買う実需の価格とに分かれて動いており、世界的な物価高で建築費が上がる一方、郊外や地方では資産価値を保ちにくいエリアが広がると見込まれます。名古屋市内でも、駅や生活利便からの距離によって、この先の資産価値の道筋は分かれていくでしょう。
国際結婚のご夫婦の場合、この棚卸しには特有の問いが加わります。「残された配偶者は、この先も日本で暮らすのか。それともいつかブラジルへ帰るのか」。もし将来ブラジルへ戻る可能性があるなら、使わなくなる不動産を早めに売却して現金化しておくほうが、残された方の負担は軽くなります。海外に移ってから日本の不動産を売ると、非居住者としての税の手続き(源泉徴収など)が加わり、格段に手間が増えるからです。逆に、日本に骨を埋めるおつもりなら、配偶者居住権や遺言で「住まいを守る」設計に重心を置きます。どちらの道を選ぶにしても、登記の専門家と不動産取引の専門家が同じ一人の中にいる当事務所なら、法律の設計から売却の実行までを、途切れなく一つの窓口でお手伝いできます。
最後に、在日ブラジル人の方々を取り巻く環境にも触れておきます。日本で暮らすブラジル国籍の方は2025年6月末時点で約21万人。その最大の集住地が愛知県で、約6万人の方が暮らしています。永住資格をお持ちの方の割合は年々高まり、日本国籍への帰化を選ぶ方も、近年はブラジル国籍の方だけで年間およそ340人から530人前後で推移しています。名古屋に根を下ろし、家を持ち、世代を重ねる――そんな定住化が進むほど、「国籍の違う家族の相続」は特別なことではなく、この街の日常になっていきます。備えを始めるのに、早すぎるということはありません。
体験談――名古屋市中川区・Kさんご夫婦(60代)のケース
当事務所がお手伝いした事例に近い形でご紹介します(個人が特定されないよう内容は変えています)。
日本人のKさん(ご主人・60代)と、ブラジル国籍の奥さま(60代)は、結婚して30年余り。中川区の一戸建てで暮らし、お子さまはいらっしゃいません。ご主人には前の結婚のお子さまが一人いて、長く音信がありませんでした。「私に何かあったとき、妻はあの子と遺産分割の話し合いができるだろうか。日本語の難しい書類を前に、途方に暮れるのではないか」――健康診断をきっかけにそう考えたご主人が、当事務所の相続のプライベートコンサルティングにお越しになりました。
私たちはまず、ご夫婦の財産と家族関係を一枚の図に棚卸しし、遺言がない場合に奥さまが直面する手続きを具体的にお見せしました。そのうえで、ご主人は「自宅と預金は妻に相続させる」という公正証書遺言を作成。前婚のお子さまの遺留分に配慮して、一定の預金をその方に残す内容も盛り込みました。奥さまも「私が先に逝ったら、すべて夫に」という遺言を、通訳を介さず、ご自身の言葉で確認しながら作られました。あわせて、奥さまが将来ひとりになったときに備え、ご自宅をいつ、どう手放すかの目安も宅地建物取引士の立場からご提案しました。
手続きを終えた奥さまの「これで安心して、二人の老後を楽しめます」という一言と、ご主人の少し照れたような笑顔が、いまも印象に残っています。遺言は、亡くなったあとのためだけのものではなく、いまを安心して生きるための書面なのだと、教えていただいた思いです。
よくあるご質問(FAQ)
Q1.ブラジル国籍の妻は、日本人の夫の財産を相続できますか。 はい、日本人と同じように相続できます。相続人の国籍は問われず、法定相続分も日本人配偶者と変わりません。名古屋のご自宅を相続してご自身の名義に登記することも、外国籍のまま問題なく行えます。
Q2.ブラジル国籍ですが、日本の公正証書遺言を作れますか。 作れます。遺言の方式は、遺言をした地(日本)の法律に合っていれば有効です。日本語に不安がある場合は、通訳を介して公正証書遺言を作成する方法も用意されています。2025年10月からは公正証書作成のデジタル化も始まり、利用しやすくなっています。
Q3.夫婦で一通の遺言を作ってもよいですか。 いいえ。日本の民法は、夫婦であっても同じ書面で遺言すること(共同遺言)を禁じています。お二人がそれぞれ別々の書面で作成してください。内容をお互いに整合させて設計することは、もちろん可能です。
Q4.遺言があれば、ブラジルの親族と話し合いをしなくて済みますか。 財産を特定の相続人に「相続させる」遺言があれば、原則として遺産分割協議は不要になり、海外在住の相続人の署名証明などを待たずに相続登記を進められます。ただし、遺留分への配慮や遺言の書きぶりによって結論が変わる場合がありますので、作成時に専門家の確認を受けることをおすすめします。
Q5.将来ブラジルへ帰国するかもしれません。名古屋の自宅はどうしておくのがよいですか。 帰国後に日本の不動産を売ると、非居住者としての税務手続きが加わり、手間が大きく増えます。帰国の可能性が高いなら、日本にいる元気なうちに売却の段取りを考えておくのが安心です。当事務所は司法書士兼宅地建物取引士として、登記から売却まで一つの窓口でお手伝いします。
国籍の違いを、不安ではなく「備えの理由」に
まとめ
国際結婚のご夫婦の相続は、たしかに日本人同士より一段ていねいな準備が要ります。けれども裏を返せば、備えの効果がいちばん大きく表れるのも、国際結婚のご夫婦だということです。遺言が一通あるだけで、残された配偶者は、国境を越えた書類集めや慣れない話し合いから解放されます。配偶者居住権やおしどり贈与、そして資産の棚卸しを組み合わせれば、住まいと暮らしを守る設計は、さらに確かなものになります。
当事務所は、名古屋市中区で、司法書士と宅地建物取引士という二つの国家資格の立場から、相続と資産にまつわるプライベートコンサルティングを行っています。お客さまごとにオーダーメイドで設計し、費用ははじめに明瞭にお伝えする――この姿勢で、国籍の違うご夫婦の「うちの場合はどうなの?」に、一つひとつお答えしてまいりました。
遺言のご相談に、早すぎる時期はありません。お二人が元気で、笑いながら話し合える今こそ、いちばんの作りどきです。名古屋の地で長く寄り添ってこられたお二人の暮らしを、この先も守り抜くお手伝いを、私たちにさせてください。
※本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。法令・税制・統計や手続きの取扱いは変更される場合があり、また準拠法の判断をはじめ個別の事情によって結論が変わります。記載の統計値や制度の細部には、公表時期により差異がありうる点をご了承のうえ、実際のお手続きの際は最新情報をご確認ください。