できそうでできない相続登記——ブラジル国籍のご家族がいる方がつまずく「三つの壁」

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相続登記は自分でできる?できそうでできない落とし穴|ブラジル国籍の相続を名古屋の司法書士・宅建士が解説

2026/06/11

できそうでできない相続登記——ブラジル国籍のご家族がいる方がつまずく「三つの壁」

「相続登記くらい、自分でできるのではないか」。法務局のホームページには申請書のひな形が載っていますし、書店には手引き書も並んでいます。実際、亡くなった方も相続人も全員が日本国籍で、相続人がお一人かお二人、というような場合には、ご自身で申請までたどり着ける方もいらっしゃいます。

ところが、相続登記には「できそうで、できない」場面が思いのほか多くひそんでいます。とくに、亡くなったお父さまやお母さま、あるいは配偶者の方がブラジル国籍だった場合、日本国籍の方の相続では当たり前に使える書類が、そもそも存在しないのです。「戸籍を集めてください」と言われても、ブラジルに戸籍はありません。ここで手続きが止まってしまい、何年も名義がそのまま——というご相談を、名古屋で数多くお受けしてきました。

2024年(令和6年)4月に始まった相続登記の義務化では、それ以前に発生した相続についても、2027年(令和9年)3月31日までに申請するよう経過措置の期限が定められています。この記事を書いている2026年6月の時点で、残された時間は1年を切りました。この記事では、司法書士であり宅地建物取引士でもある立場から、「なぜ相続登記はできそうでできないのか」を、ブラジル国籍が関わる場合を中心に、できるだけやさしくお話しします。

1.「自分でできるはず」が止まってしまう理由——義務化と、1年を切った期限

相続登記が「できそうでできない」手続きである理由と、2027年3月31日という締め切り

相続登記とは、亡くなった方の名義になっている土地や建物を、相続した方の名義に書き換える手続きです。申請書そのものは1~2枚で、一見すると簡単そうに見えます。それでも途中で止まってしまう方が多いのは、申請書の「手前」に大きな山があるからです。

まず、亡くなった方の出生から死亡までのつながりを証明する書類をすべて集め、「相続人が誰なのか」を一人の漏れもなく確定しなければなりません。日本国籍の方なら戸籍をさかのぼって集める作業ですが、転籍や結婚のたびに戸籍は作り替えられているため、複数の市区町村に請求が必要になることも珍しくありません。次に、相続人全員で「誰がこの不動産を引き継ぐか」を話し合い、遺産分割協議書という書面にまとめ、全員の実印と印鑑証明書をそろえます。お一人でも連絡が取れない方、協力いただけない方がいると、ここで止まります。そして最後に、法務局の審査です。書類に不足や不備があれば「補正(ほせい)」を求められ、平日に何度も法務局とやり取りすることになります。

それでも以前は、「いつかやればいい」と先送りができました。今は違います。2024年4月1日から相続登記は法律上の義務となり、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しなければ、正当な理由がない限り10万円以下の過料(かりょう・行政上のペナルティ)の対象になります。そして大切なのは、この義務が過去の相続にもさかのぼる点です。2024年4月より前に亡くなったご家族の名義がそのままになっているお宅は、2027年3月31日が申請の期限。つまり、もう1年を切っています。期限が近づくにつれて法務局や専門家への依頼が集中することも予想されますから、「うちは大丈夫だろうか」と思われた方は、今のうちに動き出されることをおすすめします。

なお、どうしても遺産分割の話し合いがまとまらない場合に、ひとまず義務を果たしたことにできる「相続人申告登記」という新しい制度もあります。ただしこれはあくまで応急処置で、この登記だけでは不動産を売ることはできません。最終的には通常の相続登記が必要になる、という点は誤解のないようにお伝えしておきます。

2.戸籍のない国の相続——証明書集め・翻訳・海外のサイン証明という三つの壁

ブラジル国籍の相続登記で必要になる書類と、日本の戸籍との違い

ここからが、この記事の本題です。亡くなった方やご家族にブラジル国籍の方がいると、相続登記の難しさは一段も二段も上がります。理由ははっきりしていて、ブラジルには日本のような戸籍制度がないからです。

日本の戸籍は、一通のなかに出生・婚姻・親子関係・死亡までが時系列でつづられる、世界でも珍しい仕組みです。相続登記はこの戸籍を前提に組み立てられているため、戸籍のない国の方が関わると、「戸籍に代わる書類」を一つひとつ積み上げて、相続関係を証明しなければなりません。ブラジルの場合、出生証明書・婚姻証明書・死亡証明書といった証明書を取り寄せ、それらを組み合わせて「相続人はこの人たちで全員です」と示していくことになります。これが第一の壁です。日本のように「本籍地に請求すれば一式そろう」わけではなく、証明書ごとに発行元が異なり、ブラジル本国とのやり取りに数か月かかることもあります。ここで知っておきたいのが、名古屋ならではの強みです。名古屋市中区丸の内には在名古屋ブラジル総領事館があり、日本で暮らすブラジルの方は、出生・婚姻・死亡といった身分上のできごとを領事館に登録していることが少なくありません。登録があれば、証明書を領事館で取得できる場合があり、ブラジル本国に請求するよりずっと早く進みます。どこに何が登録されているかの見極めが、期間を左右する分かれ道になります。

第二の壁が、翻訳です。外国語の書類には、翻訳者を明らかにした日本語訳を付けて提出する必要があります。ポルトガル語の証明書は、相続に関する法律用語を正確に訳さなければ、法務局から補正を求められることがあります。なお、「外国の書類にはアポスティーユ(国際的な認証)が必要では?」と心配される方もいらっしゃいますが、外国の官公署が発行した証明書を日本の法務局に提出する場合、登記実務では訳文を添付すれば足り、アポスティーユまでは原則求められません。アポスティーユが登場するのは、むしろ逆方向——日本で作った書類をブラジル側の手続き(現地の銀行や登記所など)に提出する場面が中心です(ブラジルは2016年にハーグ条約に加盟しています)。どちらの国の、どの手続きに使う書類なのかで必要な認証が変わる、という点が誤解されやすいところです。

第三の壁が、海外在住の相続人とのやり取りです。ブラジルに住む相続人がいる場合、日本の印鑑証明書は取得できませんから、代わりにサイン証明(署名証明)を現地で整える必要があります。遺産分割協議書の作り方にもひと工夫が要りますし、そもそも「会ったこともない現地の相続人」と連絡を取り、趣旨を説明し、協力していただくまでの道のりが、いちばんの山場になることもあります。

加えて、見落とされがちな点をもう一つ。戸籍を前提とした便利な制度である「法定相続情報証明制度」(戸籍の束の代わりに一枚の証明書で各手続きができる仕組み)は、被相続人や相続人に外国籍の方がいる場合、原則として利用できません。日本国籍同士の相続なら使える近道が使えない——これも「できそうでできない」の代表例です。また、そもそもどの国の法律で相続するのかという入口の判断(準拠法といいます)も必要ですが、日本に長く住んでいたブラジル国籍の方の場合、最終的に日本の法律で進められることが多い、とだけここでは触れておきます。この判断はご事情により変わりうる繊細な部分ですので、必ず専門家にご確認ください。

3.実例に学ぶ——止まっていた登記が動き出すまでと、登記の「その先」

名古屋での解決事例と、名義を整えたあとの不動産をどう考えるか

実際にあったご相談に近い例を、個人が特定されないよう内容を変えてご紹介します。

名古屋市中川区にお住まいの50代の女性、Mさん。ブラジル国籍(日系二世)のご主人を亡くされ、お住まいのマンションがご主人名義のままでした。義務化のニュースを見て「自分でやってみよう」と法務局の相談窓口へ。ところが「戸籍に代わるブラジルの証明書類が必要です」と説明を受け、何をどこに請求すればよいのか分からず、半年近く手続きが止まっていました。さらに、ご主人の妹さんがブラジル在住で、「ハンコをもらうにも、どうすれば……」と途方に暮れて私どもの事務所にいらっしゃいました。

私どもはまず、ご主人の身分登録がどこにあるかを調査し、在名古屋ブラジル総領事館で取得できる証明書と、ブラジル本国のカルトリオに請求すべき証明書を仕分けして取り寄せ、ポルトガル語翻訳と相続関係の説明書面を作成。ブラジルの妹さんには、現地で署名を証明する書類を整えていただき、国をまたいだ遺産分割協議をまとめました。受任から数か月で相続登記は無事に完了。Mさんは「最初の半年は何だったのか」と笑っておられましたが、これは決してMさんの努力が足りなかったのではありません。外国籍が関わる相続登記は、慣れた専門家でも一件ごとに設計図を引き直す、オーダーメイドの仕事なのです。

そして、名義を整えることはゴールではなく、スタートでもあります。相続した不動産を「住む」「貸す」「売る」のどれにするかで、その後の暮らしは大きく変わるからです。名古屋の不動産は全国的に見れば底堅く、2026年の公示地価でも名古屋市の住宅地は3%程度の上昇が続いています。ただし上昇の勢いは前年より鈍り、駅近や都心部と、郊外の住宅地との差は広がりつつあります。今後の日本は、家を買う世代の人口が減る一方、団塊の世代の相続にともなって売りに出る家が増えていきます。世界的な建築資材の高騰で新築には手が届きにくくなり、立地のよい中古には需要が残る半面、需要の薄いエリアの家は資産価値を保ちにくくなる——そんな二極化の時代です。「いつか売れる」ではなく「買い手がいるうちに、納得して決める」ことが、ご家族の資産を守ります。私どもは登記の専門家である司法書士と、不動産取引の専門家である宅地建物取引士の両方の立場から、登記のその先——売却や活用のご相談まで、一つの窓口でお手伝いしています。

まとめ

相続登記は、書類が整いさえすれば申請自体は難しくありません。難しいのは、その「書類を整える」までの道のりです。とりわけブラジル国籍のご家族が関わる相続では、戸籍のない国の証明書集め、翻訳、海外在住の相続人とのやり取りと、一般の方が独力で越えるには高い壁がいくつも続きます。だからこそ「できそうでできない」のです。

2027年3月31日の期限まで、すでに1年を切りました。名義がそのままの不動産に心当たりのある方は、どうか「うちは複雑だから」とあきらめず、まず現状の整理だけでもなさってください。私どもは、お一人おひとりのご事情に合わせたオーダーメイドの対応と、ご依頼の前に費用の全体像をお示しする明瞭会計を大切にしています。言葉や制度の違いに戸惑うご家族の気持ちに寄り添いながら、登記から不動産の売却まで見通したプライベートコンサルティングで、相続という節目を安心して越えるお手伝いができれば幸いです。名古屋で相続登記にお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

※本記事の法令・制度の内容は2026年6月時点のものです。今後の改正等により取り扱いが変わる可能性がありますので、実際のお手続きの際は最新の情報をご確認ください。

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