相続人に認知症の方がいるとき~遺産分割が止まる理由と成年後見・進め方の選択肢を外国籍の方向けに名古屋の司法書士が解説

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認知症の相続人がいる外国籍の相続はどうする?名古屋の司法書士が解説

2026/10/22

はじめに|「母が認知症で、相続の話し合いができない」

在日コミュニティの高齢化とともに、急増しているご相談です。

お父様が亡くなり、相続人はお母様と子どもたち。ところがお母様は認知症が進んでいて、遺産分割の話し合いの内容を理解できない――このご相談は、高齢化が進む在日韓国人・中国人のご家族をはじめ、外国籍の方の相続で年々増えています。

「家族なんだから、母の分は私が代わりにサインすれば」と考えたくなりますが、それはやってはいけない対応の筆頭です。一方で、教科書どおりに成年後見制度を使うと、思わぬ代償を抱え込むこともあります。

この記事では、名古屋のごとう司法書士事務所が、認知症の相続人がいる相続の正しい進め方と、制度を使う場合・使わずに進める場合の選択肢、そして何よりの対策である予防まで、やさしい日本語でご説明します。

なぜ止まるのか|認知症の相続人は話し合いに参加できない

遺産分割協議は契約と同じ。内容を理解できる判断能力が必要です。

遺産分割協議は、相続人全員の合意で財産の分け方を決める、法律上の立派な契約行為です。契約には内容を理解して判断する能力(意思能力)が必要で、認知症が進んでこの能力を欠く方は、協議に有効に参加できません。

本人が参加できないからといって、その方を外して残りの相続人だけで協議をしても、相続人全員の合意になっていないため無効です。つまり、認知症の相続人がひとりいるだけで、遺産分割協議そのものが法律的に成立しなくなるのです。これは外国籍の方の相続でも同じです。

その結果、亡くなった方名義の不動産は協議による名義変更ができず、銀行の預貯金も原則として払い出せない。これが「相続が止まる」の正体です。認知症といっても程度はさまざまで、軽度で判断能力が保たれていれば協議に参加できる場合もありますが、その見極めは慎重に行う必要があります。主治医の診断書や、公証人・金融機関の面談での確認が目安になります。

やってはいけないこと|家族による代筆・代理サインは無効です

「家族だから」は、法律上の代理権にはなりません。

いちばん多い誤解が、「同居の長女が母の実印を預かっているから、母の分も押しておけばいい」というものです。たとえ家族でも、本人の判断能力がない状態で代わりに署名・押印した協議書は無効です。それだけでなく、ほかの相続人から私文書偽造だと追及され、家族関係が決定的に壊れる引き金にもなります。

銀行の窓口で「お母様は健在です」として手続きを進めてしまうのも同じ危険があります。金融機関は本人の意思確認を行うため、認知症が分かれば手続きは止まり、以後の対応はかえって厳しくなります。

また、認知症になる前に預かっていたキャッシュカードで生活費を引き出し続けることも、あとで他の相続人から使い込みを疑われる火種になります。本人のためのお金の管理と、相続の手続きは、制度に乗って透明に行うことが、結局はご家族全員を守ります。「よかれと思って」が最悪の結果を招くのが、この分野の怖さです。

原則の道|成年後見人の選任と、知っておくべき代償

後見人を立てれば協議は進みます。ただし「相続のためだけ」には使えません。

正攻法は、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらうことです。後見人が認知症の方の代理人として遺産分割協議に参加すれば、協議は有効に成立し、登記も銀行手続きも進められます。

ただし、知っておくべき現実が3つあります。第一に、時間と費用。申立てから選任まで通常2〜4か月かかり、診断書や申立書類の準備も必要です。第二に、だれが後見人になるか。親族が選ばれることもありますが、財産額や家族関係によっては司法書士・弁護士などの専門職が選ばれ、その報酬(目安として月2万円前後から)が本人の財産から支払われ続けます。第三に、後見は相続が終わっても原則やめられないこと。「協議のためだけに使って、終わったら外す」ことはできず、本人が亡くなるまで続く制度です。

さらに、後見人(または成年後見監督人)が付いた協議では、本人の法定相続分をきちんと確保する内容が求められるのが原則です。「母の分はゼロにして子どもで分ける」といった柔軟な分け方は基本的にできません。また、子が母の後見人になっている場合、同じ相続の相続人同士で利益相反となるため、協議のために特別代理人の選任が必要になります。これらを織り込んだうえで、使うかどうかを判断しましょう。

申立てができるのは、本人・配偶者・4親等内の親族などです。主治医の診断書、本人の財産や収支の資料、親族の意見書などを揃えて家庭裁判所に提出します。当事務所は申立書類の作成を業務としてお手伝いできますので、「書類が多くて手が回らない」という段階からお任せいただけます。

後見を使わずに進められる範囲|法定相続分の登記と払戻し制度

目的によっては、後見なしでも動かせる部分があります。

「後見の負担は重い。でも登記の義務や当面のお金は何とかしたい」という場合、協議を前提としない手続きには進められる範囲があります。

不動産は、法定相続分どおりの共有名義であれば、協議書なしで相続登記ができます(相続人のひとりから申請できます)。外国籍の方の場合は本国法の相続分(韓国籍なら配偶者1.5倍など)で登記します。これで相続登記の義務(3年以内、昔の相続は2027年3月31日まで)は果たせますし、より簡易な相続人申告登記で義務だけ果たしておく方法もあります。ただし共有のままでは売却に全員の関与が必要で、根本解決にはならない点には注意が必要です。

預貯金は、遺産分割前の払戻し制度(口座残高の3分の1×法定相続分、1金融機関150万円まで)を、判断能力のある相続人が自分の分について使えます。葬儀代など当面の資金はこれでしのげることがあります。

つまり、「義務と急場は後見なしで対応し、本格的な分割や売却は後見または本人の状況変化を待って行う」という二段構えが、実務的な落としどころになることが多いのです。どこまでを先に動かすかは、ご家族の目的次第です。

外国籍ならではの論点|準拠法と本国法の相続分、海外にいる認知症の相続人

制度の入口も相続分の計算も、国際案件では一段複雑になります。

外国籍の方が日本に住んでいる場合、成年後見開始の審判は日本の家庭裁判所に申し立てることができ、日本の後見制度が適用されます。在日の韓国籍・中国籍のお母様の後見を名古屋家裁に申し立てる、という形で、国籍を理由に後見が使えないわけではありません。

一方、法定相続分どおりの登記をする場合、その割合は亡くなった方の本国法で計算します。韓国籍なら配偶者は子の1.5倍、中国法なら原則均等――ここを日本法の割合で登記してしまう誤りが実際にあります。後見人が参加する協議でも、確保すべき「本人の相続分」は本国法ベースで考える必要があり、専門家でも慎重さが求められる場面です。

難易度が上がるのが、認知症の相続人が本国や第三国に住んでいるケースです。日本の後見をそのまま使えるとは限らず、現地の成年後見に相当する制度(韓国にも日本と似た成年後見制度があります)や、現地裁判所の関与が必要になることがあります。現地で後見人が選任されれば、その後見人が日本の遺産分割に参加する道筋を検討します。この場合は、無理に全部を一度に解決しようとせず、日本国内でできる手続き(法定相続分の登記や払戻し)を先行させる設計が現実的です。国をまたぐ後見はケースバイケースの検討が不可欠ですので、早めにご相談ください。

いちばんの対策は予防|元気なうちの遺言・任意後見

「認知症になってから」は選択肢が減ります。「なる前」なら全部選べます。

ここまで読んで「大変だ」と感じた方にお伝えしたいのは、これらの苦労のほとんどは予防できるということです。

第一の予防は遺言です。親御さんが元気なうちに公正証書遺言を作っておけば、そもそも遺産分割協議が不要になり、認知症の相続人がいても遺言どおりに手続きできます。たとえば「全財産を妻に」という遺言があれば、妻が認知症でも遺言執行者が手続きを完了できます。遺言執行者を指定しておけば、手続きの担い手も確保できます。外国籍の方は、準拠法を日本法に指定する条項もあわせて検討しましょう。

第二が任意後見です。判断能力があるうちに「将来、自分の判断能力が落ちたら、この人に任せる」と公正証書で契約しておく制度で、法定後見と違い、信頼する家族を自分で選べます。

このほか、不動産や預貯金の管理を信頼できる家族に託す家族信託(民事信託)という方法もあり、収益物件をお持ちのご家庭などで活用が広がっています。ご夫婦の場合は、お互いに遺言を作っておく(夫婦相互の遺言)ことで、どちらが先に亡くなっても、残された方の認知症に関係なく手続きできる体制になります。

ご夫婦のどちらかに認知症の兆しが見え始めたら、それは「もう無理」のサインではなく、「今なら間に合う」の合図です。当事務所では、遺言と後見の制度説明から公証役場の段取りまで、ご家族に合わせた予防の設計をお手伝いしています。

まとめ|「止まった相続」も道はあります。正しい順番でご相談を

代筆だけは絶対にしない。目的を整理して、後見・部分対応・予防を使い分ける。

認知症の相続人がいる相続は、協議が法律上成立しないために止まります。家族による代筆は無効なうえ危険。正攻法は成年後見ですが、期間・費用・生涯続く負担・法定相続分の確保という代償を理解して選ぶ必要があります。登記の義務や当面の資金は、法定相続分の登記や払戻し制度で後見なしに対応できる範囲もあります。そして外国籍の方は、相続分の計算が本国法になる点と、海外在住の認知症相続人の扱いに専門的な検討が要ります。

何を優先したいのか――売却か、義務の履行か、お母様の生活資金か――によって、最適な道は変わります。名古屋のごとう司法書士事務所は、成年後見の申立書類の作成から法定相続分での登記、そして予防のための遺言づくりまで、外国籍のご家族の事情に合わせてお手伝いしています。「もう詰んだかもしれない」と思われる状態こそ、一度ご相談ください。ご本人の診断の状況、ご家族の構成、急ぐ事情の3つをうかがえれば、その場で選択肢と順番を整理してお示しします。

▶認知症の相続人がいる相続のご相談は、名古屋のごとう司法書士事務所へ。フリーダイヤル0120-290-939、またはごとう相続手続き相談センターからお気軽にお問い合わせください。


※本記事は2026年10月時点の法令・制度に基づいて作成しています。成年後見の運用や報酬は家庭裁判所・事案によって異なりますので、実際のお手続きの際は最新の情報をご確認ください。

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