農地や山林を相続したらどうする?届出と手放す方法を名古屋の司法書士が解説
2026/10/20
はじめに|「田んぼと山も相続していた」と、あとから気づく方が多いのです
自宅や預貯金のかげに隠れて、農地と山林は見落とされがちです。
相続の手続きを進めていくと、固定資産税の納税通知書の片隅に、見覚えのない田・畑・山林が載っていることがあります。親御さんの故郷の農地、祖父母の代から引き継がれてきた山。「行ったこともない土地をどうすればいいのか」と戸惑うのは、日本人でも外国籍の方でも同じです。
農地と山林の相続には、自宅の相続にはない独特のルールがあります。相続登記とは別に役所への届出が必要で、それぞれに期限があります。そして「売りたくても買い手がいない」ことが多い一方、手放すための制度も整ってきました。
この記事では、名古屋のごとう司法書士事務所が、農地・山林を相続したときにやるべきことと、持つ・手放すの選択肢を、やさしい日本語でご説明します。
農地・山林の相続の全体像|登記だけでは終わらない「届出」がある
「登記+届出」の二本立て。これが農地・山林の相続の基本形です。
農地や山林も不動産ですから、相続したらまず相続登記(名義変更)が必要です。2024年4月からの相続登記の義務化(3年以内、昔の相続は2027年3月31日まで)は、田・畑・山林にもそのまま適用されます。評価額が100万円以下の土地は登録免許税が免税になる措置(2027年3月31日まで)があり、農地や山林はこの免税に該当することが多いのも知っておきたい点です。
そして農地・山林には、登記とは別の届出があります。農地は農業委員会へ、森林は市町村へ。これは「この土地の新しい持ち主はだれか」を地域の農業・林業の行政が把握するための仕組みで、登記をしても自動的には伝わりません。
つまり、農地・山林の相続は「法務局への登記」と「役所への届出」の二本立てです。どちらも期限があるため、自宅や預貯金の手続きと並行して、最初から段取りに組み込んでおく必要があります。
見落としを防ぐコツは、名寄帳(なよせちょう)の取得です。固定資産税の納税通知書には、税額が小さい土地が載っていないことがあります。市町村で名寄帳を取れば、その市町村にある親御さん名義の不動産がすべて一覧になるため、「知らない農地・山林」の発見にはこれがいちばん確実です。親御さんの故郷など、不動産がありそうな市町村ごとに取り寄せましょう。
農地を相続したら|農業委員会への届出はおおむね10か月以内
許可はいらない代わりに、届出が義務です。
農地は、売買では農業委員会の許可(農地法3条)が必要な特別な土地ですが、相続で取得する場合に許可はいりません。その代わり、相続で農地を取得したことを知ったときからおおむね10か月以内に、農地がある市町村の農業委員会へ届出をする義務があります(農地法3条の3)。届出を怠ると過料の対象になることもあります。
この届出は、遺産分割でその農地を取得した方が行います。様式は各市町村の農業委員会にあり、登記が済んでいればその情報を添えて出すだけの、比較的シンプルな手続きです。
実務でのつまずきは、「農地だと気づかない」ことです。登記簿の地目が田や畑になっていれば、現況が荒れ地や駐車場でも法律上は農地として扱われることがあります。固定資産税の課税明細書と登記簿の両方で地目を確認し、農地が含まれていたら届出をセットで予定に入れてください。なお、耕作できない場合は、農業委員会があっせんなどで借り手・買い手探しの相談に乗ってくれることもあります。
山林を相続したら|市町村への届出は90日以内
森林の届出は農地より期限が短いので、先に片づけましょう。
地域森林計画の対象となっている森林を相続した場合は、取得を知った日から90日以内に、森林がある市町村へ所有者の届出が必要です(森林法)。農地の10か月より期限がずっと短いため、山林が含まれる相続では、この届出を最優先の期限として扱います。こちらも怠ると過料の対象になり得ます。
山林特有の問題が、「どこからどこまでが自分の山か分からない」ことです。山林は境界の杭がなく、図面も古いことが多いため、正確な範囲は地元の森林組合や隣地の所有者への聞き取りで確認していくことになります。親御さんの代の資料(森林組合の組合員証、育林の記録、山の管理を頼んでいた方の連絡先)は、処分せずに確保しておいてください。
また、山林は固定資産税が安いぶん放置されやすいのですが、倒木や土砂の崩れでふもとの家や道路に被害が出れば、所有者の責任が問われることがあります。「安いから持っておく」ではなく、「管理できるか」で判断することが大切です。
持ち続ける負担|税金・管理責任・次の世代への先送り
農地・山林は「資産」というより「責任」の性格が強い財産です。
農地・山林を持ち続ける場合の負担を正直に挙げると、毎年の固定資産税(農地・山林は低額なことが多い)、草刈りや防除などの管理の手間と費用、獣害や不法投棄への対応、そして災害時の所有者責任です。収益を生まない土地のために、時間とお金を払い続ける構図になりがちです。
農地を耕作しないまま放置すると、農業委員会の調査で遊休農地とされ、利用の意向を確認されたり、場合によっては課税が重くなったりする仕組みもあります。「持っているだけなら安い」が、将来も続くとは限らないのです。
そして最大のリスクは、先送りです。あなたの代で方針を決めなければ、次の相続でお子さんたちが同じ問題を、増えた相続人の人数で抱えることになります。行ったこともない土地の、会ったこともない共有者との話し合い――放置された農地・山林の末路は、たいていこの形です。
外国籍のご家族の場合、お子さんの世代が母国や第三国で暮らしていることも多く、日本の田畑や山の管理はさらに現実的でなくなります。「子どもたちに残すべき財産か、片づけておくべき課題か」という目で、一度冷静に棚卸しをしてみてください。
手放す方法|売る・貸す・国に引き取ってもらう(国庫帰属制度)
「買い手がいない土地」にも、出口は用意されています。
手放す方法は3つあります。1つ目は売却・譲渡です。農地は農業委員会の許可が必要ですが、近隣の農家や農業法人が引き受けてくれることがあり、農業委員会やJAへの相談が近道です。山林は隣地の所有者や森林組合、林業会社が買い手候補になります。市町村の空き家・空き地バンクに載せる方法もあります。
2つ目は貸すこと。農地は農地バンク(農地中間管理機構)を通じて意欲ある農家に貸す仕組みがあり、管理の負担から解放されつつ所有を続けられます。
3つ目が、2023年に始まった相続土地国庫帰属制度です。相続した土地を、審査を経て国に引き取ってもらう制度で、建物がない・境界に争いがない・担保が付いていないなどの要件を満たす必要があります。申請には1筆あたり1万4千円の審査手数料、承認されれば10年分の管理費相当の負担金(原則20万円、土地によってはそれ以上)がかかります。タダではありませんが、「負担を金額で確定させて終わらせられる」のがこの制度の価値です。農地・山林も対象になり得ますし、共有の土地でも共有者全員で申請すれば利用できます。申請の前提として相続登記が済んでいることが必要なので、ここでも登記が出発点になります。
このほか、隣接する農家や山の持ち主に無償で引き取ってもらう、市町村に寄付を打診するという方法もありますが、相手にも固定資産税と管理責任が移るため、簡単には引き受けてもらえないのが実情です。だからこそ、「お金を払ってでも確実に終わらせる」国庫帰属制度が選択肢として意味を持ちます。
どの出口が合うかは土地ごとに違います。まず登記簿と現況を確認し、相談先(農業委員会・森林組合・法務局)への道筋をつけるところから、当事務所がお手伝いします。
外国籍の方の段取り|本国書類と「いらない土地だけ」は選べない話
手続きの流れは同じ。ただし「選べないルール」に注意が必要です。
外国籍の方の場合も、農地・山林の名義変更の手順は自宅と同じです。本国の身分関係書類で相続人を確定し、遺産分割協議書を作り、登記と届出を行います。書類集めに2〜3か月かかることを考えると、山林の90日の届出期限は相当タイトです。届出は登記の完了前でもできますので、期限ものから先に処理する段取りを組みます。
注意したいのは、相続放棄との関係です。「自宅と預貯金は相続したいが、山だけいらない」という虫のいい選択はできません。相続放棄はすべての財産をまとめて手放す制度だからです。いらない土地だけを整理したい場合は、いったん相続したうえで、前の章の売却・譲渡・国庫帰属で手放すのが正しい道筋です。この順番を知らずに「山がいやだから」と全部を放棄してしまうと、自宅まで手放すことになりかねません。
遺産分割の工夫も有効です。農地・山林を管理できる相続人に寄せる、あるいは換価できるものは売って分ける。協議書に「農地はだれが取得し届出を行うか」まで書いておけば、届出漏れの防止にもなります。だれも引き取り手のない土地こそ、専門家を交えた設計が生きる場面です。
また、土地が遠方で現況を見に行けない場合も、登記簿・公図・航空写真や、地元の農業委員会・森林組合への照会で、おおよその状態は把握できます。「見に行けないから手がつけられない」とあきらめる必要はありません。
まとめ|遠くの土地ほど、早めに方針を決めましょう
登記+届出の期限を守り、持つか手放すかを自分たちの代で決める。
農地・山林の相続は、相続登記(3年以内、昔の相続は2027年3月31日まで)に加えて、農地は農業委員会へおおむね10か月以内、森林は市町村へ90日以内という届出の期限があります。持ち続けるなら管理の体制を、手放すなら売却・農地バンク・相続土地国庫帰属制度という出口を、自分たちの代で決めることが、次の世代へのいちばんの思いやりです。
名古屋のごとう司法書士事務所は、外国籍の方の相続登記と各種届出のサポート、手放すための制度のご案内まで、まとめてお手伝いしています。固定資産税の納税通知書に見慣れない田・畑・山林が載っていたら、それが相談のタイミングです。名寄帳の取り寄せによる「隠れた土地」の洗い出しからでも結構です。場所が遠方でも対応できますので、通知書をそのままお持ちください。
▶農地・山林の相続のご相談は、名古屋のごとう司法書士事務所へ。フリーダイヤル0120-290-939、またはごとう相続手続き相談センターからお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年10月時点の法令・制度に基づいて作成しています。届出の様式や相続土地国庫帰属制度の負担金などの詳細は、各市町村・法務局の最新の案内をご確認ください。
