韓国籍の相続で配偶者居住権は使える?妻の住まいを守る方法を名古屋の司法書士が解説
2026/09/24
「この家に、住み続けられますか」|韓国籍のご主人を見送った奥様からのご相談
残された配偶者の住まいを守る「配偶者居住権」。ところが韓国籍の方の相続では、この制度に思わぬ壁があるのです。
名古屋市中区にあるごとう司法書士事務所では、随時無料相談を実施しています。
ご主人を亡くされた奥様から、最も多く頂くご質問のひとつが「私はこの家に住み続けられるのでしょうか」というものです。日本では2020年に「配偶者居住権」という制度が生まれ、残された配偶者が自宅に住む権利と生活資金の両方を確保しやすくなりました。テレビや雑誌の相続特集でもおなじみになった、いわば「残された妻の味方」といえる制度です。
ところが、です。ご主人が韓国籍の場合、この配偶者居住権がそのままでは使えない可能性があることは、ほとんど知られていません。原因は、相続に適用される法律の違い。韓国籍の方の相続には原則として韓国の法律が適用されるところ、配偶者居住権は日本の民法が定める制度だからです。「日本人なら使えたのに」という事態が、名古屋で暮らす韓国籍のご家庭に現実に起こり得ます。
でも、あきらめる必要はありません。生前のひと工夫、具体的には遺言によって、この壁は乗り越えられます。この記事では、外国籍の方の相続を数多くお手伝いしてきた名古屋のごとう司法書士事務所が、配偶者居住権の基本から韓国籍特有の落とし穴、そして奥様の住まいを守る具体的な方法まで、やさしく解説します。
配偶者居住権とは?|「家」と「お金」の両方を守る2020年生まれの制度
自宅の権利を「住む権利」と「所有権」に分ける。この発明で、残された配偶者の暮らしは大きく変わりました。
まず、配偶者居住権の基本をおさらいしましょう。2020年4月に始まったこの制度は、自宅の権利を「住み続ける権利(配偶者居住権)」と「所有権」に分け、配偶者は住む権利を、お子さんなどが所有権を取得できるようにした仕組みです。配偶者は原則として亡くなるまで無償で自宅に住み続けられ、所有者となったお子さんも勝手に売却して追い出すことはできません。
この制度が生まれる前は、悩ましい二択がありました。奥様が自宅を相続すれば住まいは守れるものの、遺産の大半が自宅で占められていると預貯金がほとんど受け取れず、老後資金が不安になる。逆にお子さんが自宅を相続すれば、奥様の住まいの保証がない。配偶者居住権は、この板挟みを解消します。たとえば遺産が自宅3,000万円と預金1,000万円の場合、居住権を1,500万円と評価すれば、奥様は「住む権利」と預金の一部の両方を手にできるのです。
取得の方法は、遺産分割協議で決める、遺言で「遺贈する」と書いておく、死因贈与契約を結ぶ、のいずれか。取得したら、建物に設定登記をすることで、建物が売られたり差し押さえられたりしても第三者に権利を主張できます。登記は配偶者と建物所有者の共同申請で、登録免許税は建物の固定資産税評価額の0.2%。登記できるのは建物のみで土地には登記しない、という点も実務上のポイントです。
さらにこの制度には、二次相続に強いという隠れた長所もあります。奥様が亡くなると配偶者居住権は消滅し、お子さんは完全な所有権を手にしますが、このとき消滅した居住権に相続税は課されないのが原則です。一次相続で「住む権利」と「所有権」を分けておくことが、結果として次の世代への引き継ぎまで滑らかにしてくれるのです。まさに残された配偶者のための制度、なのですが、ここからが本題です。
韓国籍の相続では使えないかもしれない|「準拠法の壁」という盲点
配偶者居住権は「日本の民法」の制度。相続が「韓国の民法」で処理されるなら、その土俵に登場しないのです。
日本の国際私法である通則法36条は「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。つまり、韓国籍のご主人が亡くなった場合、たとえ自宅が名古屋にあり、家族全員が日本で暮らしていても、相続の中身は原則として韓国民法で決まります。
そして、現在の韓国民法には、日本の配偶者居住権に当たる制度がありません。韓国でも高齢の配偶者の居住保護をめぐる議論はありますが、日本のような形では制度化されていないのです。相続でどんな権利を取得できるかは相続に適用される法律(準拠法)によって決まりますから、相続が韓国法で処理される場合、日本の民法にしかない配偶者居住権を遺産分割で取得することは、原則として難しいと考えられます。
ここで誤解しやすいポイントを二つ補足します。まず、準拠法を決めるのは「亡くなった方」の国籍です。奥様やお子さんが日本国籍でも、ご主人が韓国籍なら相続は原則韓国法。家族の誰かが日本人だから大丈夫、とはならないのです。逆に、ご主人が生前に日本へ帰化していれば、相続は日本法となり配偶者居住権も通常どおり使えます。また、亡くなった直後の当面の住まいを守る「配偶者短期居住権」という制度もありますが、これも日本民法の制度ですから、同じ準拠法の壁に直面します。
これは、想像以上に大きな違いです。日本人のご家庭なら当たり前に選べる「住む権利と老後資金の両取り」という選択肢が、韓国籍のご家庭では最初から選択肢に載ってこない可能性がある。相続セミナーや雑誌の特集で配偶者居住権を知り、「うちもこれで安心」と思っていた奥様にとっては、まさに盲点です。なお、この論点は専門家の間でも高度な部類に入りますので、個別のケースでどう扱われるかは、必ず渉外相続に詳しい専門家に確認してください。
大切なのは、この壁が「亡くなった後」には動かせないことです。相続が始まってしまえば、準拠法は原則として韓国法。打つ手は限られます。しかし生前であれば、話はまったく変わります。
解決の鍵は、遺言による「日本法の指定」|一枚の遺言で選択肢がよみがえる
韓国の法律自身が用意している「抜け道」。遺言で準拠法を日本法にすれば、配偶者居住権の遺贈が視野に入ります。
韓国の国際私法には、被相続人が遺言によって相続の準拠法を明示的に指定できるという規定があります。指定できるのは、指定当時の常居所地の法律(亡くなるまでその国に常居所を維持した場合に限ります)などです。日本で暮らす韓国籍の方なら、遺言に「この相続には日本法を適用する」という趣旨の条項を入れておくことで、相続全体を日本の民法で処理できるようになります。
そして、準拠法が日本法になれば、日本民法の制度である配偶者居住権が使える土俵が整います。具体的には、同じ遺言の中で「妻に配偶者居住権を遺贈する」と定めておくのです。ここで細かいけれど重要な注意がひとつ。配偶者居住権を遺言で残すときは「相続させる」ではなく「遺贈する」と書く必要があるとされています。文言ひとつで結果が変わり得る繊細な世界ですから、遺言は方式の確かな公正証書で、専門家と条項を練りながら作ることを強くおすすめします。
なお、準拠法を日本法に指定した場合、配偶者居住権だけでなく、相続分の計算も遺留分も日本の民法で考えることになります。韓国法の「配偶者は子の1.5倍」という手厚い相続分と、日本法の「配偶者居住権を含む柔軟な設計」のどちらがご家庭に合うかは、財産の構成や家族関係によって変わります。一律の正解はないからこそ、遺言を作る前に、両方のパターンを比べながら設計することが大切です。
まとめると、韓国籍のご主人が奥様の住まいを守る最強の組み合わせは、「公正証書遺言で、①日本法を準拠法に指定し、②配偶者居住権を遺贈し、③遺言執行者を指定しておく」という三点セットです。一枚の遺言で、準拠法の壁を越え、住まいと老後資金の両方を奥様に残せます。当事務所では、この設計から公証役場との調整、相続開始後の居住権の設定登記まで、一貫してお手伝いしています。
配偶者居住権が使えない場合の守り方|遺産分割の工夫と保険の活用
遺言がないまま相続が始まっても、奥様の住まいを守る方法はあります。選択肢を知っていることが力になります。
では、遺言がないまま相続が始まってしまった場合、奥様の住まいはどう守ればよいのでしょうか。韓国法が適用される前提でも、実務上の工夫はいくつもあります。
まず、遺産分割協議で奥様が自宅の所有権そのものを取得する方法です。韓国民法の法定相続分は配偶者がお子さんの1.5倍と、日本法より配偶者に手厚いため、自宅を奥様に集める合意は比較的作りやすいといえます。預貯金とのバランスが取れない場合は、お子さんが預金を多めに取得する、あるいは奥様が代償金を支払うといった調整も選択肢です。
次に、家族間の話し合いで「母が住み続けること」を遺産分割協議書に明記しておく方法です。所有権をお子さんが取得する場合でも、使用貸借(無償で使わせる合意)を書面にしておけば、事実上の住まいの保護になります。より確実さを求めるなら、賃料を定めた賃貸借契約として賃借権の登記まで行う方法もあります。配偶者居住権のような制度上の保護には及ばないものの、何も決めないよりずっと安心です。
さらに、生前にできる備えとしては、生命保険の活用があります。奥様を受取人にした死亡保険金は相続財産の外で支払われるため、自宅を相続する代わりに預貯金が薄くなっても、老後資金を保険でカバーできます。自宅の名義を生前に検討し直すこと、そして何より、元気なうちに先ほどの遺言三点セットを整えておくこと。守り方は一つではありませんが、どの方法も「知っていて、早く動いた家族」だけが使えるものばかりです。
まとめ|奥様の住まいは、ご主人が元気なうちにしか守れません
配偶者居住権は「準拠法の壁」で使えないことがある。でも遺言一枚で、壁は扉に変わります。
以上、韓国籍の方の相続と配偶者居住権について解説しました。
ポイントは三つです。第一に、残された配偶者の住まいと老後資金を両立させる配偶者居住権は日本民法の制度であり、韓国法が適用される韓国籍の方の相続では原則として使えない可能性があること。第二に、遺言による準拠法の指定という韓国籍の方だけの仕組みを使えば、日本法の土俵に乗せたうえで配偶者居住権を遺贈できること。第三に、遺言がない場合でも、遺産分割の工夫や生命保険で奥様の住まいを守る道は残されていることです。
長年連れ添った奥様が、住み慣れた家で安心して暮らし続けられるかどうか。それを決められるのは、ご主人が元気な今だけです。判断能力が低下してからでは、遺言も準拠法の指定もできなくなります。「まだ早い」と感じる今こそ、ご夫婦で一度、住まいの行く末を話し合ってみてください。名古屋のごとう司法書士事務所では、韓国籍の方の遺言作成支援から、相続発生後の遺産分割・相続登記・不動産売却まで、司法書士兼宅地建物取引士がワンストップで丁寧にお手伝いしています。ご夫婦でのご相談も大歓迎です。どうぞお気軽にお問い合わせください。
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※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。渉外相続における配偶者居住権の取り扱いは専門的な論点を含みますので、実際のお手続きの際は、必ず司法書士など専門家に個別のご事情をふまえた最新の情報をご確認ください。