【2026年2月開始】名古屋の相続で「不動産の見落とし」を防ぐ所有不動産記録証明制度とは|司法書士兼宅建士が解説
2026/06/29
「親の不動産、これで全部?」という不安にこたえる新しい制度
親が亡くなって相続の手続きを始めたとき、多くの方がふと立ち止まります。「実家の土地と建物は分かるけれど、ほかにも親名義の不動産があったのではないか」「昔、田舎に山林や畑を持っていたと聞いた気がする」——。こうした見えない不安を抱えたまま、手続きを進めてよいものか迷う方は少なくありません。
2026年(令和8年)2月2日から始まった「所有不動産記録証明制度」は、まさにこの不安にこたえる新しい仕組みです。亡くなった方が全国に持っていた不動産を、一覧にまとめた証明書として受け取れるようになりました。
この記事では、名古屋で相続を迎えた方に向けて、新しい制度のしくみと使い方、取得にかかる費用、そして実務で気をつけたい落とし穴までを、司法書士兼宅地建物取引士の立場からやさしく整理してお伝えします。相続登記の「見落とし」を防ぎ、その先の売却まで安心して進めるための一歩として、お役立てください。
所有不動産記録証明制度とは?2026年2月に始まった「不動産の一覧表」
所有不動産記録証明制度とは、亡くなった方(被相続人)が所有していた全国の不動産を、ひとつのリストにまとめて証明書として受け取れる制度です。 法務局(登記所)に請求すると、その方が登記簿上の所有者(所有権の登記名義人)になっている土地や建物を一覧化した「所有不動産記録証明書」が交付されます。
これまで、不動産の登記記録は土地や建物ごとに別々に作られていました。そのため「特定のある人が、全国にどんな不動産を持っているか」を一覧で調べるしくみは存在しませんでした。亡くなった方の不動産を相続人が把握しきれず、見逃された土地について相続登記がされないまま放置される——そうした事態が各地で起きていると、かねて指摘されてきたのです。
新しい制度は、この「見落とし」をなくすために生まれました。2024年(令和6年)4月1日に相続登記の申請が義務化されたことと一体の制度で、相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくし、登記の漏れを防ぐことを目的としています。施行日は2026年(令和8年)2月2日です。
なぜいま、この制度が必要とされたのか
背景にあるのは、全国に広がる「所有者不明土地」の問題です。所有者が亡くなっても相続登記がされないまま世代を重ねると、登記簿を見ても今の持ち主が誰か分からない土地が積み上がっていきます。こうした土地は、公共事業や災害復旧、近隣の土地取引の妨げになり、社会全体の損失につながります。
特にこれから、いわゆる団塊の世代が相続を迎える時期に入り、相続の件数も空き家の数も大きく増えていくと見られています。名古屋でも、郊外の住宅地や昔ながらの戸建てを中心に、空き家の増加が現実の課題になりつつあります。相続のたびに不動産の見落としが起きていては、所有者不明土地はさらに増えてしまいます。所有不動産記録証明制度は、その入り口でブレーキをかけるための仕組みだとお考えいただくと分かりやすいでしょう。
証明書は誰が・どこで・いくらで取れる?請求の方法と手数料
所有不動産記録証明書は、亡くなった方の相続人であれば、全国どこの法務局からでも請求できます。 名古屋にお住まいの方が、遠方にある不動産の分も含めて、名古屋の法務局でまとめて請求できるのが大きな利点です。手続きの流れは「①請求 → ②検索 → ③交付」の3ステップです。順番に見ていきましょう。
請求できる人
請求できるのは、次の方々です。
ひとつは、所有権の登記名義人ご本人です。ご自身が持っている不動産を生前に確認したいときに使えます。もうひとつは、その方の相続人やその他の一般承継人(地位を引き継ぐ方)です。亡くなった親の不動産を調べたい子の立場が、これにあたります。また、司法書士などの代理人を通じて請求することもできます。
請求の方法
請求は、全国すべての法務局・地方法務局(支局・出張所を含みます)の窓口で、書面またはオンラインで行えます。書面の場合は郵送での請求も可能です。名古屋にお住まいであれば、お近くの法務局の窓口や郵送で手続きを進められます。
ひとつ覚えておきたいのは、交付までにかかる日数です。制度が始まったばかりの時期は請求が混み合うことも予想され、交付まで2週間程度かかる場合があるとされています。相続の期限が気になる方は、早めに動いておくと安心です。
必要な書類
請求の際には、立場に応じて次のような書類が必要になります。
ご本人が請求する場合は、印鑑証明書(請求書には実印を押します)、または本人確認書類の写し(マイナンバーカードや運転免許証など)のいずれかを用意します。相続人が請求する場合は、これに加えて、亡くなった方との相続関係を示す書類が必要です。具体的には、戸籍謄本や「法定相続情報一覧図の写し」などです。代理人に頼む場合は、さらに委任状(請求人の実印を押し、印鑑証明書を添付)が必要になります。
なお、すでに「法定相続情報番号」などを取得している場合は、その情報を提供することで書類の提出に代えられる場面もあります。書類の準備は意外と手間がかかる部分ですので、ここでつまずきそうだと感じたら、専門家に相談するのがスムーズです。
手数料
手数料は、検索条件1件につき1通あたり、次のとおりです。
書面で請求する場合は1,600円(収入印紙で納付)、オンライン請求で郵送交付の場合は1,500円、オンライン請求で窓口交付の場合は1,470円です。たとえば、ひとりの被相続人について、現在の住所・氏名のほか過去の住所などを含めて検索条件を4件指定し、1通を請求すると、書面請求では「検索条件4件×1通×1,600円=6,400円」となります。検索条件を増やすほど費用も増えるしくみなので、どの条件で請求すべきかの見極めが、ムダのない取得のポイントになります。
名古屋の相続でこそ役立つ理由|「登記漏れ」と「売却準備」の両面から
この制度は名古屋の相続で特に力を発揮します。理由は、名古屋にお住まいの被相続人が、市内だけでなく郊外や出身地の遠方にも不動産を持っているケースが少なくないからです。 一覧で確認できることのありがたみが、こうした場面で際立ちます。
名古屋の方は、堅実に住まいや土地を守ってこられた方が多く、中区や千種区、昭和区といった市内の自宅に加えて、出身地の三重・岐阜・愛知県内郊外などに、先代から引き継いだ田畑や山林、古い家屋を持っているケースが見られます。こうした「本人もはっきり把握していなかった不動産」こそ、相続のときに見落とされがちです。固定資産税の納税通知書に載っていない非課税の土地(公衆用道路など)は、特に漏れやすいものの代表例です。
所有不動産記録証明書を取れば、こうした不動産も含めて、亡くなった方名義のものを一覧で確認できます。これは、相続登記の申請漏れを防ぐうえで非常に心強い材料になります。
売却を考えている方にとっての意味
相続した不動産を売りたいと考えている方にとっても、この制度は出発点として役立ちます。売却の前提として、まず「何を相続したのか」を正確に把握する必要があるからです。市内の自宅は売るとして、郊外の使い道のない土地が一緒に見つかれば、それも含めて「売る・貸す・残す」をまとめて考えることができます。
不動産の価格をめぐる環境は、いま大きく動いています。若い世代の人口が減っていくなかで住宅の需要は中長期的に縮小すると見られる一方、相続による空き家の増加で供給は増えていく傾向にあります。さらに、世界的なインフレや建築資材の高騰で新築の価格は上がり続け、一般の方が家を買いにくくなっているという指摘もあります。価格相場は、国内外の投資家が見る「投資用」と、実際に住む方が買う「実需用」とで動きが異なり、同じ名古屋でもエリアによって資産価値の保ちやすさに差が出てきています。地方を中心に、今後は資産価値を保ちにくいエリアが増える可能性もあると言われています。
こうした流れのなかでは、「相続した不動産をいつ、どう動かすか」の判断が、これまで以上に結果を左右します。まず全体像をつかむことが、その判断の土台になるのです。
司法書士兼宅地建物取引士だからできる「一歩先」の見立て
不動産が一覧で見えるようになっても、「この土地は登記して残すべきか」「あの空き家は売ったほうがよいのか」という判断までは、証明書は教えてくれません。ここは、登記の専門家であり、不動産取引の専門家でもある立場が力になる場面です。
当事務所は、司法書士と宅地建物取引士の両方の資格を持ち、さらに代表は元銀行員でもあります。登記という法律手続きと、売買という不動産実務、そして資金や税の見通しを、ひとつの窓口でつなげて考えられるのが強みです。証明書で全体像をつかんだうえで、「どこから手をつけ、何を残し、何を手放すか」を、相続される方の事情に合わせて一緒に描いていきます。
ここに注意|証明書だけに頼ってはいけない3つの落とし穴
所有不動産記録証明書はとても便利ですが、万能ではありません。「これさえ取れば全部分かる」と思い込むと、かえって見落としを招くおそれがあります。 制度の限界を正しく知っておくことが、安全な相続手続きの近道です。代表的な注意点を3つ挙げます。
第一に、検索は氏名と住所をもとに行われるため、網羅性に限界があります。登記簿上の氏名・住所と、請求時に指定した氏名・住所が食い違っていると、その不動産は抽出されません。引っ越しを重ねた方や、登記をした当時の住所が古いままの方は、過去の住所も検索条件に加えるなどの工夫が必要です。逆に、同じ氏名・住所の別人(同名異人)の不動産が混ざって抽出されることもあります。
第二に、対象とならない不動産があります。所有権の登記がされている不動産が検索の対象で、表示に関する登記しかされていない不動産(所有権の登記がない建物など)は含まれません。また、登記簿がまだコンピューター化されていない一部の不動産も、検索結果には出てきません。さらに、検索した時点で審査中の登記申請がある不動産の情報も反映されません。
第三に、該当する不動産が見つからなくても手数料はかかります。「該当なし」という証明がされる場合も料金は同じで、返却されません。やみくもに請求するのではなく、どの条件で請求すれば過不足なく拾えるかを、あらかじめ見極めておくことが大切です。
これらの落とし穴を踏まえると、証明書はあくまで「出発点の地図」であり、最終的には登記簿や名寄帳、固定資産税の課税明細などと照らし合わせて確認する作業が欠かせません。名古屋市内の不動産であれば市役所の名寄帳、郊外の不動産であればその市町村の資料と突き合わせる、といった地道な確認が、見落としをなくす確実な方法です。こうした横断的な調査は、登記の実務に通じた司法書士が得意とするところです。
想定事例|名古屋・千種区の実家を相続したケース
ここで、よくある状況を想定事例としてご紹介します(説明のための例であり、特定の方の体験ではありません)。
たとえば、名古屋市千種区で長く暮らしていたお父さまが亡くなり、東京で働く50代の長女の方が相続の手続きを始めたとします。分かっているのは、千種区の自宅の土地と建物だけ。けれど、生前に「岐阜の田舎にも親父が継いだ土地がある」と聞いた記憶があり、本当にそれだけなのか確信が持てません。
このような場合、所有不動産記録証明書を請求すれば、お父さま名義の不動産を全国分まとめて確認できます。仮に、千種区の自宅に加えて、岐阜県内の宅地と山林、さらに名古屋市内に持分だけ残っていた私道(公衆用道路)が見つかったとしましょう。私道は固定資産税が非課税で、納税通知書に載っていなかったため、放っておけば登記漏れになっていたかもしれません。
全体像が見えれば、次の一手を描けます。自宅は売却して兄弟で分け、山林は管理の手間や資産価値を考えて方針を決め、私道の持分も忘れず相続登記をする——。証明書で「何があるか」をつかみ、登記と売却の専門家と一緒に「どうするか」を決めていく。この流れが、遠方にお住まいの相続人の方ほど、心強い支えになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 所有不動産記録証明書を取れば、亡くなった親の不動産は確実にすべて分かりますか? いいえ、確実にすべてとは限りません。氏名・住所をもとに検索するしくみのため、登記簿上の情報と請求時の条件がずれていると抽出されないことがあります。所有権の登記がない不動産や、登記簿がコンピューター化されていない不動産も対象外です。便利な制度ですが、名寄帳や課税明細などと併せて確認することをおすすめします。
Q2. 名古屋に住んでいますが、遠方の不動産も名古屋で請求できますか? はい、できます。全国どの法務局からでも請求でき、亡くなった方が全国に持つ不動産を一覧で受け取れます。名古屋の法務局の窓口や郵送で、遠方の分もまとめて手続きできるのが、この制度の便利なところです。
Q3. 費用はいくらかかりますか? 検索条件1件につき1通あたり、書面請求で1,600円、オンライン請求の郵送交付で1,500円、窓口交付で1,470円です。検索条件を増やすほど合計額も増えます。なお、該当する不動産がなかった場合でも手数料はかかり、返金はされません。
Q4. この制度を使えば、相続登記をしなくてもよくなるのですか? いいえ。所有不動産記録証明制度は、不動産を「把握する」ための制度です。相続登記そのものは、2024年4月から義務化されており、原則として取得を知ってから3年以内の申請が必要です。証明書で不動産を確認したうえで、相続登記まで進める必要があります。
Q5. 自分で請求するのと、司法書士に頼むのとでは何が違いますか? ご自身でも請求できますが、検索条件の設定や必要書類の準備、そして証明書をもとにした相続登記・売却の判断には、専門的な知識が役立ちます。特に、見落としを防ぐための条件設定や、他の資料との突き合わせは、登記実務に通じた司法書士が力を発揮する部分です。証明書の取得から登記、売却まで一貫して任せたい場合は、司法書士兼宅地建物取引士の事務所にご相談いただくと安心です。
「全体像を知る」ことから、安心の相続が始まる
まとめ
まず把握し、そして登記・売却へ——名古屋の相続を一歩先まで
2026年2月に始まった所有不動産記録証明制度は、亡くなった方の不動産を全国分まとめて確認できる、相続の心強い味方です。名古屋にお住まいで、市内や遠方に複数の不動産がある方ほど、「見落とし」を防ぐ効果を実感しやすい制度だといえます。
一方で、検索の網羅性には限界があり、対象外の不動産もあること、該当がなくても費用はかかることなど、知っておくべき注意点もあります。証明書はあくまで出発点の地図であり、そこから相続登記、さらには売却までをどう進めるかが、相続全体の結果を左右します。
当事務所は、名古屋市中区丸の内に拠点を置き、司法書士と宅地建物取引士の両資格、そして元銀行員としての経験を生かして、相続の把握から登記、不動産の売却までをワンストップでお手伝いしています。一人の司法書士が最後まで責任をもって担当し、明朗会計でご案内する個別対応を大切にしています。「親の不動産、これで全部だろうか」という最初の不安から、「無事に手続きを終えられた」という安心まで、じっくりお話を伺いながら、お一人おひとりに合った道筋をご提案します。相続のどのタイミングでも、どうぞお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。制度の運用や手数料などは改正される可能性があるため、実際の手続きの際は法務局の最新情報や専門家にご確認ください。税金に関する個別の判断については、税理士にご相談ください。