名古屋で韓国籍の方の相続|祖父母名義のままの土地・家を放置すると相続人が増え続けます――「数次相続」の解きほぐし方を司法書士が解説
2026/07/21
「固定資産税の紙だけが、亡くなった祖父の名前で届く」――その家、いま動かないと手がつけられなくなります
毎年春になると届く固定資産税の納税通知書。その宛名が、何十年も前に亡くなったおじいさまやおばあさまの名前のまま――そんなご家庭が、名古屋には少なくありません。「税金は払っているのだから、名義はそのままでも困らない」と、親の代から先送りされてきた土地や家。じつはこの「そのまま」の間にも、相続人は静かに増え続けています。
相続の名義変更をしないまま次の世代の方が亡くなると、その方の相続人がまた相続に加わります。これが繰り返されることを「数次相続(すうじそうぞく)」といい、気がつけば相続人が10人、15人と膨れ上がり、会ったこともない親戚の判子が必要になる――ということが、実際に起こります。
そして、亡くなったおじいさま・おばあさまが韓国籍だった場合、この数次相続にはもうひとつの難しさが重なります。韓国の相続のルールは時代によって大きく変わってきたため、「いつ亡くなったか」によって、誰がどれだけ相続するかの答えそのものが変わってしまうのです。
このコラムでは、名古屋・中区で相続と不動産を専門にお手伝いしているごとう司法書士事務所が、「祖父母名義のまま残された不動産」をどう解きほぐしていくのかを、できるだけやさしい言葉でご案内します。少し込み入った話も出てきますが、順番にかみくだいてお伝えしますので、どうぞ肩の力を抜いてお読みください。
1.なぜ「祖父母名義のまま」の家が生まれるのか――そして放置の間に何が起きているのか
―― 相続人が「雪だるま式」に増える数次相続のしくみ
まず、どうしてこんなことが起こるのかからお話しします。
じつは、少し前まで、相続登記(不動産の名義を相続人に変える手続き)はいつまでにしなければならないという期限がなく、任意の手続きでした。名義を変えなくても住み続けられますし、固定資産税の通知も届く。「困っていないから、そのうちに」と先送りされた結果、全国で持ち主の分からない土地――いわゆる所有者不明土地は、合わせると九州の面積を上回るとまで言われるようになりました。2023年の国の調査では、全国の空き家は約900万戸と過去最多を更新しています。名義の放置は、決してめずらしい話ではなく、日本中で起きてきたことなのです。
問題は、放置している「間」に起きることです。たとえば、昭和の時代に亡くなったおじいさまの名義のままの土地があるとします。おじいさまの相続人は、おばあさまと、お子さんたち。ところが名義を変えないうちに、おばあさまが亡くなり、お子さんの誰かも亡くなると、亡くなった方の配偶者やお子さん――つまりお孫さん世代やその配偶者――が、次々と相続の輪の中に入ってきます。これが数次相続です。
相続の手続きでは、原則として相続人「全員」の合意(遺産分割協議)が必要です。相続人が3人のうちに動いていれば簡単だった話し合いが、20年、30年と経つうちに、相続人12人、うち2人は面識のない親戚、1人は海外在住――となると、手紙を出すところから始めなければなりません。時間が経てば経つほど、関係者は増え、記憶も書類も失われていく。「祖父母名義の放置」は、いわば利息のつく宿題なのです。
名古屋という土地柄でいえば、戦後の早い時期から、中区の栄や大須、中村区や港区などで商売や事業を営み、土地や建物を持ってこられた在日韓国人のご家庭が少なくありません。堅実で、土地や家を「守るもの」として大切にする名古屋の気質もあってか、「売らずに持ち続けてきたが、名義は先代のまま」というご相談は、私どもの事務所でもよくお受けします。
2.韓国籍ならではの難しさ――「いつ亡くなったか」で相続のルールが変わります
―― 1991年より前の相続には「昔の韓国民法」。書類集めも世代の数だけ必要です
ここからが、韓国籍のご家庭に特有のお話です。
日本では「法の適用に関する通則法」という法律により、相続は亡くなった方の本国法によるとされています。おじいさまが韓国籍のまま亡くなっていれば、その相続は原則として韓国の民法で考えることになります。ここまでは、当事務所のコラムでも折にふれてお伝えしてきたとおりです。
数次相続で大切になるのは、韓国の民法が時代とともに大きく姿を変えてきた、という点です。相続のルールは「亡くなった時点」のものが適用されますから、昭和の時代に亡くなったおじいさまの相続には、いまの韓国民法ではなく、当時の古い韓国民法(旧法)を当てはめて考える必要があるのです。
現在の韓国民法では、お子さんたちの相続分は男女の区別なく平等で、配偶者はその1.5倍と定められています。ところが、この形になったのは1991年1月1日以降に亡くなった方の相続からです。それより前の旧法の時代には、家を継ぐ長男に相続分の上乗せがあったり、同じ戸籍にいる娘の相続分は息子の半分、嫁いで戸籍を出た娘はさらに小さい割合とされたりと、男女や立場によって相続分に大きな差が設けられていました。さらに1960年より前に亡くなった方については、韓国民法の施行前ですので、当時の慣習によって判断するという、もう一段階古いルールの世界になります。旧法時代の細かな割合や適用関係はとても専門的で、事案によって結論が分かれることもありますので、ここでは「亡くなった時期によって、誰がどれだけ相続するかの答えが変わる」ということだけ、まず覚えていただければ十分です。
つまり、祖父母名義の不動産では、「昭和に亡くなった祖父の相続は旧法で」「平成以降に亡くなった父の相続はいまの法律で」と、ひとつの土地の上に、時代の異なるルールを二段重ね、三段重ねにして計算していくことになります。これは日本人同士の数次相続にはない、韓国籍のご家庭ならではの作業です。
書類集めも、世代の数だけ必要になります。韓国籍の方の身分関係は日本の戸籍には載りませんから、2007年末までの分は韓国の「除籍謄本」、2008年以降の分は「家族関係登録」の各証明書で、亡くなった方お一人おひとりについて、出生から死亡までをつないでいきます。祖父母の代となると、除籍謄本も古い時代のものになり、ハングル以前の漢字表記の記録を読み解くことや、日本語への翻訳も必要です。取り寄せの入り口となる「登録基準地(韓国の本籍地)」が分からない場合には、閉鎖された外国人登録原票の開示請求から手がかりを探すこともあります。正直に申し上げて、ご家族だけで完走するのは、なかなか骨の折れる道のりです。
3.それでも、道はあります――名古屋での解きほぐし方と「期限」の話
―― 2027年3月31日という締め切り。まずは相続人の全体図を描くことから
「うちはもう手遅れでは」と感じられた方にこそ、お伝えしたいことがあります。数次相続は、どんなに複雑でも、順番にほどいていけば必ずゴールにたどり着ける手続きです。そして、いま動き始めるべき理由が、はっきりとあります。
それが、2024年4月に始まった相続登記の義務化です。不動産を相続したことを知った日から原則3年以内に登記をしないと、正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象になり得ます。そして見落とされがちなのですが、この義務は、義務化より「前」に発生した相続――まさに祖父母名義のまま残されてきた不動産――にも及びます。その申請期限が2027年3月31日。この記事を書いている2026年7月から数えると、残りはおよそ8か月です。数次相続の書類集めと相続人の確定には、半年から1年かかることもめずらしくありませんから、「期限までまだある」とは、もう言えない時期に来ています。
もっとも、「期限までに遺産分割の話し合いがまとまりそうにない」という場合の備えもあります。「相続人申告登記」といって、自分が相続人であることを法務局に申し出ておくことで、ひとまず登記の義務を果たしたことにできる簡便な制度です。話し合いに時間がかかりそうなご家庭では、こうした制度を組み合わせながら、無理のない順序で進めていきます。
実際の進め方は、おおまかに三歩です。第一歩は、相続人の「全体図」を描くこと。祖父母の代から現在まで、韓国と日本の書類をつないで、誰が相続人なのかを一人残らず確定します。第二歩は、時代ごとのルールを当てはめて、それぞれの相続分を計算すること。第三歩が、相続人全員との連絡と遺産分割協議です。韓国在住の方には韓国の印鑑証明を、海外在住の方にはサイン証明をと、お住まいの国に応じた書類で協議書を仕上げ、法務局に相続登記を申請します。
―― ここで、よくあるご相談をひとつ、人物が分からない形にしてご紹介します。中区にお住まいの60代の男性から、「昭和40年代に亡くなった祖父名義の土地に、自分の家が建っている。建て替えを機に名義を直したい」というご相談をいただきました。調べてみると、韓国籍だったおじいさまの相続には旧法時代のルールが関わり、相続人はすでに12人。うちお二人は韓国に、お一人はアメリカにお住まいでした。古い除籍謄本を数世代分取り寄せて翻訳し、相続関係の全体図を作成。お手紙とお電話で事情をご説明したところ、「いつか誰かがやらねばと、みんな思っていた」と、ご協力いただけることになりました。韓国の印鑑証明とサイン証明を集め、協議書をまとめて相続登記を完了するまで、およそ10か月。男性からは「祖父の代の宿題がようやく終わった。子どもに残さずに済んだのが何よりうれしい」と言っていただけました。
そして、名義を整えたあとの「出口」も、あわせて考えておきたいところです。名古屋では、中区など都心部の不動産は底堅い一方、これからの日本は、若い世代の人口減少と団塊世代の相続の増加で、住む人のいない家が市場に増えていくと見られています。世界的なインフレと建築資材の高騰で、投資家向けの価格と実際に住む方向けの価格が別々に動く傾向も続いており、郊外や地方を中心に、資産価値を保ちにくいエリアが広がっていくことも予想されます。せっかく整えた名義の不動産を「誰かが住むのか、貸すのか、売るのか」。当事務所は司法書士であると同時に宅地建物取引士でもありますので、登記のその先、売却や活用のご相談まで、窓口をひとつにしてお手伝いできます。
祖父母名義の家は「時間が経つほど重くなる宿題」。全体図さえ描ければ、必ずほどけます
まとめ
祖父母名義のまま残された不動産は、放置している間にも相続人が雪だるま式に増え、話し合いの相手が広がっていきます。おじいさま・おばあさまが韓国籍の場合は、亡くなった時期によって適用される韓国民法が変わり、旧法時代の相続分の計算や、世代の数だけの韓国書類の収集・翻訳という、特有のひと手間も加わります。そして、義務化された相続登記の期限――過去の相続分は2027年3月31日――は、もう目の前です。
けれども、数次相続は「手遅れ」になる手続きではありません。相続人の全体図を描き、時代ごとのルールを当てはめ、お一人おひとりと丁寧に連絡を取っていけば、何十年前の宿題でも、きちんと終わらせることができます。大切なのは、これ以上相続人が増えてしまう前に、最初の一歩を踏み出すことです。
ごとう司法書士事務所では、ご家庭ごとに事情のまったく異なる数次相続を、画一的な対応ではなく、その方に合わせたオーダーメイドの進め方でお手伝いしています。費用はご依頼の前に分かりやすくお示しする明瞭会計。司法書士であり宅地建物取引士でもある専門家として、韓国の書類集めから相続登記、不動産の売却や活用、その先の資産のことまで、プライベートな相談相手として一貫して寄り添います。
名古屋で、おじいさま・おばあさま名義のままの土地や家にお心当たりがありましたら、古い権利証や納税通知書だけお持ちになって、どうぞお気軽にお越しください。ご相談は何度でも無料で承っております。