名古屋で韓国籍の方の相続放棄|「3か月の壁」が日本より厳しい理由と手続きの流れを司法書士が解説
2026/07/06
借金やいらない不動産も「相続」のうち――韓国籍のご家族の相続放棄には、日本と違う時計が動いています
相続というと、預貯金や不動産を「もらう」お話を思い浮かべる方が多いのですが、実は借金や保証債務、買い手のつかない空き家といった「もらいたくないもの」も、そのままにしていると相続人に引き継がれてしまいます。こうした場合の備えが「相続放棄」で、いま日本では、家庭裁判所での相続放棄の受理件数が2024年に約30万9千件と、はじめて30万件を突破して過去最多を更新するなど、ごく身近な手続きになりつつあります。全国の空き家が約900万戸にのぼるなか、「実家を引き継いでも維持できない」という理由で放棄を選ぶ方が増えているのです。
ところが、亡くなったお父さま・お母さまが韓国籍だった場合、この相続放棄には、日本の相続とは違うルールが適用されます。とくに「3か月」という期限の数え方が日本より厳しく、日本の感覚のまま「まだ大丈夫」と待っていると、放棄ができなくなってしまうおそれがあるのです。一方で、期限を過ぎてしまった方のための救済の仕組みが韓国の法律に用意されているなど、知っておくと助かる違いもあります。
このコラムでは、名古屋・中区で相続と不動産を専門にお手伝いしているごとう司法書士事務所が、韓国籍のご家族の相続放棄について、「どこの国の法律で、どこの裁判所で、いつまでに」という肝心なところを、できるだけやさしい言葉でご案内します。難しいお話はかみくだいてお伝えしますので、どうぞ肩の力を抜いて読み進めてください。
1.どこの法律で、どこの裁判所で放棄するのか――「韓国の法律・日本の裁判所」という組み合わせ
―― 中身は韓国民法、手続きは名古屋の家庭裁判所で
まず、いちばん基本のところからお話しします。
日本の法律(法の適用に関する通則法36条)では、相続は「亡くなった方の本国法による」と決められています。ですから、韓国籍のまま亡くなられた方の相続には、日本ではなく韓国の民法が適用されるのが原則です。相続放棄も相続の一部ですから、「放棄できるかどうか」「いつまでにしなければならないか」といった中身のルールは、韓国民法で判断されることになります。
「それなら、韓国の裁判所まで行かなければいけないの?」と心配される方が多いのですが、ご安心ください。亡くなった方が日本で暮らしていらした場合、日本の家庭裁判所に相続放棄の申述をすることができます。手続き先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。たとえば名古屋市内にお住まいだったお父さまの相続でしたら、名古屋家庭裁判所に申述することになります。つまり、「中身のルールは韓国民法、手続きの場所は日本の家庭裁判所」という組み合わせになるわけです。
このとき提出する書類にも、韓国籍ならではの特徴があります。日本人の相続放棄でしたら戸籍謄本を添えますが、韓国籍の方の身分関係は日本の戸籍には載っていませんから、韓国の「家族関係証明書」や「基本証明書」、2007年末までの身分関係をたどる「除籍謄本」などを取り寄せ、日本語の翻訳文を添えて提出します。こうした書類は駐名古屋大韓民国総領事館や韓国本国から取り寄せることになり、どうしても日数がかかります。あとでお話しする「3か月」の期限を考えると、この書類集めの時間こそが、韓国籍の方の相続放棄でいちばんの急所になります。
2.韓国民法の「3か月」は、日本の「3か月」より厳しい――そして期限を過ぎた方への救済も
―― 熟慮期間の数え方の違いと、「特別限定承認」という敗者復活の仕組み
つぎに、いちばん大切な「期限」のお話です。
相続放棄には、日本でも韓国でも「相続が始まったことを知ってから3か月以内」という期限があります。この3か月を「熟慮期間」と呼びます。数字だけ見るとまったく同じなのですが、実はこの3か月の数え方に、見逃せない違いがあります。
日本の裁判実務では、たとえば「亡くなったことは知っていたけれど、借金があるとはまったく思っていなかった」という場合に、事情によっては、借金の存在を知ったときから3か月を数え直してもらえることがあります。督促状が届いてはじめて借金が分かった、というケースでも、3か月を過ぎた後の相続放棄が認められる余地があるのです。ところが韓国民法では、熟慮期間の起算点は「相続が開始したことと、自分が相続人であることを知った日」と厳格に考えられており、日本のように起算点を柔軟にずらす扱いは、基本的に認められていないとされています。つまり、お父さまが亡くなったことと自分が相続人であることを知っていれば、借金の存在を知らなくても、3か月の時計は容赦なく進んでいく――これが韓国ルールの厳しいところです。
「では、3か月を過ぎてから借金が見つかったら、もう打つ手はないの?」――ここで登場するのが、韓国民法1019条3項の「特別限定承認」という仕組みです。これは、相続財産より借金のほうが多いこと(債務超過)を、重大な落ち度なく知らなかった場合には、その事実を知ったときから3か月以内であれば「限定承認」ができる、というものです。限定承認とは、ざっくり言えば「相続した財産の範囲内でだけ借金を返し、それを超える分は責任を負わない」という手続きで、いわば敗者復活戦のような救済です。日本の限定承認はあまり使われていない制度ですが、韓国籍の方の相続では、この特別限定承認が期限後の大切な逃げ道になることがあります。ただし、どんな場合に「重大な落ち度がない」と言えるかは事案ごとの判断になりますので、期限を過ぎてしまったかも、と思われた方こそ、早めに専門家にご相談いただきたいのです。
なお、熟慮期間の中身をどちらの国の法律で判断するかといった点は、専門家の間でも議論のある難しい論点を含んでいます。実際の裁判所の取り扱いが事案によって異なる可能性もありますので、この記事の説明がすべての場合に当てはまるとは言い切れないことは、正直にお伝えしておきます。
3.放棄は「連鎖」します――子ども全員が放棄したとき、次に相続人になるのは誰か
―― 日本より広い韓国の相続順位と、2023年に変わった韓国最高裁の判断
最後に、意外と知られていない「放棄の連鎖」のお話です。
相続放棄をすると、その方は最初から相続人でなかったことになり、相続権は次の順位の方へ移っていきます。ここで韓国民法の相続順位を見てみると、第1順位が直系卑属(子や孫)、第2順位が直系尊属(父母や祖父母)、第3順位が兄弟姉妹、そして第4順位として「4親等以内の傍系血族」――つまり、おじ・おば・甥・姪、さらにはいとこまでが相続人になり得ます。日本では兄弟姉妹(とその子である甥・姪の代襲)までで止まりますから、韓国民法のほうが、放棄の連鎖が及ぶ範囲が一回り広いのです。借金を理由に放棄をするなら、親族のどこまで声をかけておくべきか、日本の感覚より広めに考えておく必要があります。
もうひとつ、日本と大きく違うのが「子ども全員が放棄したとき」の扱いです。日本では、子が全員放棄すると孫には行かず、第2順位の親などへ移ります。ところが韓国民法では、孫も「直系卑属」として第1順位に含まれるため、子が全員放棄すると、今度は孫が相続人になってしまうと考えられてきました。借金から逃れるために放棄したのに、こんどは幼いお孫さんに借金が向かってしまう――そんな思わぬ事態が起こり得たのです。
この点について、2023年3月23日、韓国の大法院(日本の最高裁判所にあたります)が全員合議体決定で従来の判例を変更し、「配偶者と子のうち、子全員が相続放棄をした場合には、孫がいても、配偶者が単独で相続人になる」という判断を示しました。これにより、お母さま(配偶者)が放棄していない典型的なケースでは、お孫さんまで放棄の手続きをしなくてもよくなり、ご家族の負担はずいぶん軽くなりました。ただ、これは比較的新しい判断で、ご家族の構成によって結論が変わる場面も残っていますから、「うちの場合、誰がどの順番で放棄すればいいのか」は、個別に確認しながら進めるのが安心です。
―― ここで、よくあるご相談をひとつ、人物が分からない形にしてご紹介します。名古屋市内にお住まいの50代の女性から、「韓国籍のまま亡くなった父あてに、貸金業者からの督促状が届いた」というご相談がありました。亡くなられてから既に2か月半。日本の感覚なら「まだ2週間ある」ところですが、韓国民法が適用されるうえ、韓国の証明書類の取り寄せと翻訳には通常数週間かかります。そこで、まず家庭裁判所への申述に最低限必要な書類から急いで手配し、期限内に相続放棄の申述を済ませました。あわせて、放棄によって相続権が移る可能性のあるご親族の範囲を韓国民法に沿って整理し、おばさまたちへのご連絡までお手伝いしました。「もう1週間遅かったらと思うとぞっとする」とおっしゃっていたのが印象的です。
もうひとつ添えますと、最近は「借金はないけれど、誰も住まない実家を引き継ぎたくない」という理由で放棄を考える方も増えています。ただ、相続放棄はすべての財産をまとめて手放す手続きで、「家だけ放棄して預貯金はもらう」ということはできません。名古屋では、中区など都心部の不動産はいまも底堅い一方、郊外や地方の物件は、若い世代の人口減少と空き家の増加で、これから資産価値を保ちにくいエリアが広がっていくと見られています。「放棄したほうがよいのか、相続して売却したほうがよいのか」は、その不動産の立地と市場性を見きわめて判断すべき問題です。当事務所は司法書士であると同時に宅地建物取引士でもありますので、放棄の期限管理から、相続して売る場合の登記と売却の段取りまで、ひとつの窓口で見通しを立てることができます。
韓国籍のご家族の相続放棄は、「3か月」を日本の感覚で数えないことが何より大切です
まとめ
韓国籍のご家族の相続放棄で押さえていただきたいのは、次の点です。中身のルールは韓国民法で決まり、手続きは日本の家庭裁判所でできること。3か月の熟慮期間は日本より数え方が厳しく、借金を知らなかったという理由で起算点を後ろにずらすことは基本的に期待できないこと。そのかわり、期限後に債務超過が分かった場合には「特別限定承認」という救済があること。そして、放棄の連鎖は日本より広い範囲の親族に及び得るものの、2023年の韓国最高裁の判例変更で、子全員が放棄した場合は配偶者が単独で相続するとされたこと。この4つを知っているだけでも、いざというときの落ち着き方がまるで違ってきます。
とはいえ、韓国の証明書類の取り寄せと翻訳をしながら3か月の期限と競走するのは、ご家族だけではなかなか大変です。ごとう司法書士事務所では、ご家庭ごとの事情を丁寧にお伺いし、画一的ではないオーダーメイドの進め方をご提案しています。費用はご依頼前に分かりやすくご説明する明瞭会計です。司法書士であり宅地建物取引士でもある専門家として、相続放棄の判断から、相続する場合の登記、不動産の売却、その先の資産のご相談まで、プライベートな相談相手として寄り添ってまいります。
名古屋で、韓国籍のお父さま・お母さまの借金や空き家のことでご不安を抱えていらっしゃる方は、期限が来てしまう前に、どうぞお早めにお声がけください。ご相談は何度でも無料で承っております。
※本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。相続放棄の受理件数や空き家数などの統計、韓国民法・判例の解釈、家庭裁判所の運用は、変更・変動があり得ます。とくに熟慮期間の取り扱いなど国際相続の論点には専門家の間でも見解が分かれるものがあり、個別の事案では結論が異なる場合がありますので、実際の手続きの際は専門家や裁判所・領事館の窓口に最新の取扱いをご確認ください。