個人間売買の適正価格はいくら?名古屋の司法書士が解説
2026/07/23
「いくらで売ればいいの?」個人間売買でいちばん多いご質問
「息子に自宅を売りたいのですが、いくらにすればいいのでしょう」「お隣の方に土地を譲る話がまとまりそうで。でも値段の決め方がわからなくて」。名古屋で司法書士・宅地建物取引士としてご相談をお受けするなかで、個人間売買について最初にいただくご質問は、手続きでも書類でもなく、実はこの「価格」のことです。
無理もありません。スーパーの野菜と違って、不動産には値札がついていません。仲介会社を挟まない個人間売買では、値段を決めてくれる人が誰もいないのです。しかも、安くしすぎれば思わぬ贈与税(みなし贈与)が課され、高くしすぎれば買主のローンや資金計画が崩れる。価格は、個人間売買の成否を分ける最初の関門といえます。
折しも2026年7月1日、相続税や贈与税の計算のもとになる「路線価」の今年分が公表されました。愛知県は平均で前年比2.2%の上昇と5年連続のプラス。名古屋駅前の最高路線価は1平方メートルあたり1,304万円と、前年の横ばいから上昇に転じました。地価が動いている今だからこそ、「なんとなくの値段」で売買するのは危険です。今回は、個人間売買の適正価格の決め方を、価格の指標の見方から、みなし贈与にならない境界線、実務での進め方まで、順を追ってやさしくお話しします。
1. 同じ土地に5つの価格?― まずは「一物五価」を知ることから
路線価は時価の8割。指標の性格を知れば概算が見えてくる
不動産の世界には、「一物五価(いちぶつごか)」という言葉があります。ひとつの土地に、性格の異なる5つの価格が存在するという意味です。具体的には、実際の売買で成立する「実勢価格(時価)」、国が毎年3月に公表する「公示価格」、都道府県が9月に公表する「基準地価」、相続税・贈与税の計算に使う「路線価」、そして固定資産税の計算に使う「固定資産税評価額」の5つです。
ここで覚えていただきたいのは、それぞれの「水準」です。路線価は公示価格のおおむね80%、固定資産税評価額はおおむね70%を目安に定められています。つまり、路線価を0.8で割り戻す(1.25倍する)と、公示価格ベースの時価の概算が見えてくるという関係にあります。たとえば路線価で2,000万円と評価される土地なら、時価の目安は2,500万円前後、という具合です。もちろんこれはあくまで出発点の概算で、土地の形や接道、市況によって実際の時価は上下しますが、「わが家の値段のものさし」を持つ意味は小さくありません。
そして冒頭でも触れたとおり、2026年分の路線価は全国平均で前年比2.9%の上昇と5年連続のプラス、現在の算出方法になった2010年以降で最大の伸びを記録しました。愛知県は2.2%の上昇です。注目したいのは、名古屋圏の「上がり方の差」です。名古屋駅前が1.2%、栄が3.4%の上昇にとどまる一方、尾張一宮駅周辺は10.0%、刈谷駅周辺は8.5%と、再開発や利便性で選ばれるエリアが大きく伸びています。名古屋の不動産は「上がる場所」と「そうでない場所」の二極化が進んでおり、「10年前に買ったときの値段」や「近所の噂の相場」は、もはやあてになりません。個人間売買の価格を考えるときは、必ず「今年の」指標を確認することが第一歩です。
2. 安すぎる売買は「みなし贈与」に ― 税務署が見ている境界線
「時価の8割」が実務の目安。根拠は路線価と裁判例にあり
個人間売買、とりわけ親子間・親族間の売買で怖いのが、「みなし贈与」です。相続税法7条は、著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価との差額を贈与とみなして贈与税を課すと定めています。「売買したのに贈与税」という、なんとも釈然としない事態ですが、安い値段での売買が実質的な贈与の手段に使われることを防ぐための決まりです。
では、いくらなら「著しく低い」のか。実は、法律に明確な数字は書かれていません。ただ、実務では「時価の8割程度」がひとつの目安とされています。その根拠としてよく引かれるのが、路線価そのものが時価(公示価格水準)の約8割で設定されていることと、路線価水準での親族間売買について「著しく低い価額にはあたらない」と判断した裁判例(東京地裁平成19年8月23日判決)の存在です。逆にいえば、時価の5割、6割といった価格での売買は、差額に贈与税が課されるリスクが現実味を帯びてきます。ここで大切な注意をひとつ。「8割ならぜったい安全」という保証はありません。課税の判断は取引の事情を総合的にみて行われますし、路線価と実際の時価が大きくかけ離れている土地では、路線価基準そのものが適切でないこともあります。目安はあくまで目安、と心得てください。
もうひとつ、意外に知られていない大切な視点があります。同じ個人間売買でも、「誰と誰の売買か」で税務署の見る目が変わるということです。親子・兄弟・親族のように利害が一致しやすい間柄の売買は、価格が恣意的に決められやすいため厳しくチェックされます。一方、赤の他人どうし、たとえばお隣の方や知人との売買で、お互いに損得を主張し合った末にまとまった価格は、多少相場より低くても「それが市場で成立した時価」と評価されやすいのです。ご自身の売買がどちらの類型なのかを意識するだけでも、価格の決め方の慎重さが変わってきます。なお、地価が上昇している名古屋では、「数年前の感覚」のまま価格を決めると、知らないうちに時価の8割を割り込んでいた、ということが起こりやすくなっています。売買の直前に、最新の路線価と周辺相場を確かめる。この一手間が、後日の税務リスクからご家族を守ります。
3. 実務での価格の決め方 ― 三段階で「説明できる価格」をつくる
概算→相場確認→必要なら鑑定。大切なのは「根拠を残す」こと
それでは、実際に価格を決める手順をご紹介します。当事務所でおすすめしているのは、三段階の進め方です。第一段階は、公的指標による概算です。毎年春に市から届く固定資産税の課税明細書で評価額を確かめ、国税庁のサイトで最新の路線価を調べます。路線価を0.8で割り戻せば、時価のおおまかな水準がつかめます。第二段階は、実勢相場の確認です。国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では実際の成約価格が無料で調べられますし、不動産会社の査定を受けるのも有効です。当事務所は宅地建物取引士として不動産事務所も営んでおりますので、周辺の取引事例を踏まえた価格の考え方を、売主・買主どちらの側にも中立の立場でご説明できます。そして第三段階、親族間で金額が大きい場合や、形の悪い土地・貸している物件など評価の難しい場合には、不動産鑑定士による鑑定評価を検討します。費用はかかりますが、税務署に対するいちばん強い「根拠」になります。
実際にあったご相談をひとつ。名古屋市内にお住まいの70代の女性は、足腰の衰えから施設への住み替えを決め、長年かわいがってきた姪御さんに自宅を売りたいとご相談にみえました。「身内だから安くしてあげたい。でも税金で迷惑をかけるのはいや」というお気持ちでした。当事務所で固定資産税評価額と最新の路線価から概算をつくり、周辺の成約事例を確認したうえで、路線価を割り戻した時価水準を基準に価格を設定。「なぜこの価格なのか」を書面に残し、売買契約書の作成から所有権移転登記まで一貫してお手伝いしました。後日、「姪に堂々と渡せる値段の理由ができて、気持ちまで軽くなりました」とお言葉をいただきました。価格の根拠を残すことは、税務署対策であると同時に、ご親族の間に後々のわだかまりを残さないための知恵でもあるのです。
最後に、価格が決まったあとのことも一言。売買代金の授受と所有権移転登記は、同じ日に同時に行うのが鉄則です。また、決めた価格は必ず売買契約書に明記し、代金の支払いは振込で記録を残してください。司法書士は登記と権利関係の専門家として、宅地建物取引士は価格と契約実務の専門家として、個人間売買の入口から出口までを支えられます。「いくらで売ればいいの?」の段階から、どうぞお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q1. 固定資産税評価額そのままの価格で親族に売ってもいいですか?
固定資産税評価額は時価のおおむね7割水準のため、そのままの価格ですと「時価の8割」の目安を下回り、みなし贈与を指摘されるリスクがあります。評価額はあくまで概算の出発点とし、路線価の割り戻しや周辺の成約事例で時価水準を確かめたうえで価格を決めることをおすすめします。
Q2. 路線価がついていない土地は、どうやって価格を調べればいいですか?
市街地から離れた地域など路線価の定められていない土地は、固定資産税評価額に地域ごとの倍率を掛ける「倍率方式」で相続税評価額を計算します。倍率は国税庁のサイトで確認できます。そのうえで、周辺の成約事例や不動産会社の査定を組み合わせて時価水準を確かめるのは、路線価地域と同じです。
Q3. 買主が住宅ローンを使う場合、価格の決め方で気をつけることはありますか?
金融機関は担保評価を行うため、時価とかけ離れた価格では審査が通りにくくなります。また仲介会社を挟まない個人間売買では、宅地建物取引士が作成する重要事項説明書がなければ融資の土俵に乗らないことがほとんどです。当事務所は宅建士として書類作成に対応できますので、価格設定の段階からご相談いただくとスムーズです。
「説明できる価格」が、個人間売買を成功に導く
まとめ
個人間売買の価格に、たったひとつの正解はありません。けれど、「なぜこの価格なのか」を説明できる決め方には、確かな型があります。まず、路線価や固定資産税評価額といった公的指標で概算のものさしを持つこと。つぎに、時価の8割という実務の目安を意識し、安すぎる価格によるみなし贈与を避けること。そして、最新の相場を確かめ、価格の根拠を書面に残すこと。この三つを押さえるだけで、税務リスクはぐっと小さくなり、ご家族やお相手との信頼も守られます。
とりわけ今年は、路線価の上昇が続き、名古屋圏でもエリアごとの明暗がはっきりしてきた年です。「昔の感覚」のままの値決めがいちばんの落とし穴になります。価格に迷ったら、契約や登記の話に進む前の段階で、どうぞお気軽にご相談ください。登記の専門家である司法書士と、価格・契約実務の専門家である宅地建物取引士、両方の視点から、あなたの個人間売買を最初の一歩からお手伝いします。
※本記事は2026年7月時点の情報(2026年分路線価は同年7月1日公表)をもとに、一般的な内容をわかりやすく解説したものです。みなし贈与の判断や譲渡所得税など税務の具体的な取扱いは個別のご事情により異なり、「時価の8割」はあくまで実務上の目安です。実行の前に、税理士・司法書士などの専門家に個別にご確認ください。