韓国籍の相続はなぜ時間がかかる?名古屋の司法書士が解説
2026/06/01
まずはじめに
韓国籍のご家族が亡くなったとき、相続手続きが「思ったより長くかかる」理由
名古屋でご家族を見送られたあと、「相続は、書類をそろえて名義を変えるだけ」と思っていたのに、半年、一年と時間が過ぎていく——。亡くなった方(被相続人)が韓国籍だった場合、こうしたことは実際によく起こります。
ご本人やご家族が長く名古屋で暮らしてこられた在日韓国人の方であっても、日本人の相続とまったく同じようには進みません。むしろ「同じだと思っていた」ことが、後になって手続きが滞る一番の原因になりがちです。
この記事では、韓国籍の方の相続が「なぜ通常より時間と手間がかかるのか」を、相続のプロであり不動産のプロでもある司法書士兼宅地建物取引士の立場から、できるだけやさしくご説明します。突然のことで不安を抱えていらっしゃる方が、これからの見通しを立てるための手がかりにしていただければ幸いです。
1 「日本の法律で進む」とは限りません ― まず適用される法律の確認に時間がかかる
最初に時間がかかるのが、「そもそもどの国の法律で相続するのか」という入口の確認です。
日本の「法の適用に関する通則法」第36条は、相続は被相続人(亡くなった方)の本国法によると定めています。つまり、誰が相続人になり、それぞれの取り分(相続分)がいくらかといった相続の基本ルールは、亡くなった方の国籍のある国の法律——韓国籍の方であれば原則として韓国民法——で決まります。日本にあるご自宅やマンション、預貯金であっても、この考え方は変わりません。
在日の方の相続で独特なのは、「韓国の法律で進めてよいのか」を見きわめる作業がもう一段必要になる点です。日本は北朝鮮を国家として承認していないため、亡くなった方の本国法が韓国法なのか北朝鮮法なのかを、登録基準地(後述する本籍にあたるもの)が南北どちらにあるか、ご親族の暮らす地域、在留カードや特別永住者証明書の「国籍・地域」欄の表記などから判断していきます。世代が二世・三世・四世と下るほど、こうした手がかりは少なくなり、確認に時間がかかる傾向があります。
そのうえで韓国民法を見ると、日本民法と似ている部分もあれば、はっきり違う部分もあります。配偶者が常に相続人になること、お子さんなど直系卑属が第一順位になることは日本と同じですが、配偶者の相続分は他の相続人ひとり分の1.5倍です。たとえば相続人が「妻と子2人」のケースでは、韓国民法では妻3・子2・子2の割合となり、妻が7分の3、お子さんがそれぞれ7分の2を相続します(日本民法なら妻2分の1、子4分の1ずつ)。
注意したい点も二つあります。ひとつは、配偶者がいる場合、亡くなった方のご兄弟姉妹は相続人にならないこと。もうひとつは、先に亡くなったお子さんに代わって相続する人(代襲相続)の範囲が日本と異なり、ケースによってはお孫さんだけでなくお子さんの配偶者が関わってくることもある点です。日本の感覚のまま遺産分割を進めてしまうと、後でやり直しが必要になりかねません。
なお、亡くなった方が遺言の中で「自分の相続は、住んでいた日本の法律で行う」とはっきり指定し、かつ亡くなるまで日本に常居所(生活の本拠)があった場合などには、日本の民法で進められる余地があります。ただし、遺言が有効か、その内容が要件を満たすかは個別の判断になりますので、自己判断は禁物です。
2 一番時間がかかるのは「相続人を確定する書類集め」
韓国籍の相続で、もっとも時間を要するのが相続人を確定するための書類集めです。ここに、日本人の相続にはない事情が重なります。
日本では、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍)をたどれば相続人を証明できます。韓国にもかつて戸籍制度がありましたが、戸主制の廃止に伴って戸籍法は廃止され、2008年1月1日から「家族関係登録制度」に移行しました。一人ひとりに家族関係登録簿が作られる制度です。このとき従来の戸籍は「除籍簿」として保存され、それぞれの人に**「登録基準地」**(日本でいう本籍にあたるもの)が引き継がれました。
そのため書類は、亡くなった時期に応じて組み合わせます。2007年12月31日までに亡くなった方は、昔の「除籍謄本」までさかのぼって取り寄せ、2008年1月1日以降であれば、基本証明書・家族関係証明書・婚姻関係証明書・入養関係証明書・親養子入養関係証明書といった各証明書を取得します。これらはすべてハングルで書かれているため、日本の法務局で相続登記に使うには一通ずつ日本語の翻訳文を添える必要があります。
実務でつまずきやすいのが、次のような場面です。
ひとつ目は、登録基準地(本籍)が分からないケース。家族関係登録簿は登録基準地ごとに管理されるため、これが分からないと証明書を請求できません。ご家族でも正確な所在をご存じないことが多く、廃止された「外国人登録原票」を取り寄せて手がかりを探すことになります。
ふたつ目は、日本で行った結婚・出生・死亡などが、韓国の登録簿に反映されていないケース。在日の方の届け出はほとんど日本で行われるため、韓国本国へ申告していなければ韓国側の記録に載りません。この場合、日本の市区町村の届出記録や外国人登録原票などと突き合わせ、記録を整える作業が必要になります。日本方式で行った協議離婚のように、日本では成立しても韓国の登録簿には反映されない手続きもあり、両国の記録が食い違うと調査はさらに長くなります。
たとえば、こんなケースでは—— 名古屋市中村区で長年暮らしてこられた在日韓国人のお父さまを亡くされ、「相続人は自分と弟の2人だけ」と思って手続きを始められた、というケースを考えてみます。ところが除籍謄本をさかのぼると、お父さまには若い頃に韓国で記録された前のご結婚と、面識のないお子さんがいたことが判明する——こうしたことは決して珍しくありません。相続人の数が変われば、取り寄せる書類も翻訳も増え、数か月単位で時間が延びていきます。 (※実在の方の体験談ではなく、説明のための想定事例です)
書類がそろわないまま遺産分割の話し合いを進めても、最後の登記の段階で「証明が足りない」と止まってしまいます。だからこそ、最初に正確な相続人を確定させることが、結果的に一番の近道になります。当事務所では、書類の取り寄せから翻訳の手配まで一括してお引き受けしますので、「韓国語が読めない」「どこに問い合わせればよいか分からない」という方もご安心ください。
3 相続登記には「3年の期限」があります ― 不動産のこれからも一緒に
書類集めに時間がかかるからこそ、気をつけたいのが相続登記の期限です。
2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から原則3年以内に登記を申請しないと、正当な理由なく怠った場合に10万円以下の過料の対象になり得ます。2024年4月より前に発生した相続も対象で、こちらは原則として2027年3月31日までが期限とされています。韓国籍の相続は書類集めだけで数か月かかることもあるため、「3年あるから大丈夫」と構えていると、あっという間に期限が近づいてしまいます。
どうしても間に合いそうにないときは、「私はこの方の相続人です」と法務局に申し出る相続人申告登記という簡易な手続きで、ひとまず申請義務を果たす方法もあります。ただしこれは暫定的な措置で、遺産分割が決まれば改めて正式な相続登記が必要です。
そして、相続した名古屋の不動産を売却するかどうかは、できれば登記の段階から見すえておきたいところです。売ると決めても、登記が済んでいなければ売却そのものができません。名古屋市内でも、駅に近く需要の保たれやすいエリアと、郊外で空き家になりやすいエリアとで状況は分かれてきています。今後は若い世代の減少で住まいの買い手が細る一方、相続による売り物件は増えていくとも見られており、エリアによって資産価値の差がはっきりしていく可能性があります。ただし相場は経済情勢によって変わりますので、断定はできません。「いつか売れるだろう」と空き家のまま持ち続けるほど維持費や管理の負担がふくらむ点は、頭の片隅に置いておかれるとよいでしょう。
よくあるご質問
Q. 韓国籍の相続は、結局どのくらいの期間がかかりますか? ケースによりますが、韓国の書類の取り寄せと翻訳だけで数か月かかることが多く、相続人の人数や記録の整理の要否によってはさらに延びます。まずは早めに見通しを立てることをおすすめします。
Q. 日本で生まれ育った在日韓国人でも、やはり韓国の法律になりますか? 原則として、亡くなった方の国籍がある国の法律によります。日本生まれ・日本育ちであっても、韓国籍であれば韓国民法が基本です。ただし遺言で日本法を指定していた場合など、例外もあります。
Q. 韓国語がまったく分かりませんが、自分で書類を集められますか? 書類は登録基準地が分からないと請求できないことも多く、ハングルの翻訳も必要になるため、ご自身だけで進めるのは負担が大きいのが実情です。取り寄せと翻訳をまとめて専門家に任せることもできます。
Q. 相続した名古屋の不動産を、すぐ売りたいのですが? 原則として、亡くなった方の名義のままでは売却できません。相続人へ名義を変える相続登記を済ませてから売却に進みます。登記と売買を一つの窓口で相談できる専門家に早めにご連絡いただくとスムーズです。
まとめ
韓国籍のご家族が亡くなられたときの相続は、適用される法律が原則として韓国民法で、しかも在日の方は韓国法か北朝鮮法かの見きわめにも時間がかかること、相続人を確定するために2008年に移行した家族関係登録制度や昔の除籍謄本までさかのぼり、ハングルの書類を取り寄せて翻訳する必要があること、そのうえ相続登記には3年以内という期限があること——この三つが重なって、「思ったより長くかかる」ことになります。けれどもそれは「あなたの段取りが悪いから」ではなく、制度上もともと手間のかかる手続きだからです。
大切なのは、早めに正確な見通しを立てて、ひとつずつ進めていくことです。当事務所は名古屋市中区で、司法書士であると同時に宅地建物取引士でもある立場から、相続人の調査・書類の取り寄せ・翻訳の手配・相続登記、そしてその先の不動産の売却や活用まで、お一人おひとりの状況に合わせてオーダーメイドでお手伝いしています。費用も、何にいくらかかるのかを最初に分かりやすくお伝えする明朗会計を心がけています。
「韓国籍の家族が亡くなったが、何から手をつけてよいか分からない」「除籍謄本という言葉を初めて聞いた」——そんな段階で結構です。どうぞ些細なことでも、お気軽にご相談ください。
※本記事は2026年6月時点の情報に基づいています。法令や制度は改正される場合があり、個別の事情によって取り扱いが異なることがありますので、具体的なご判断にあたっては最新の情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。