相続した一棟マンションは売却か保有か|名古屋の司法書士・宅建士が判断基準を解説【2026年】
2026/05/31
まずはじめに
「親から一棟マンションを相続したけれど、このまま大家を続けるべきか、思い切って売るべきか——」。当センターに寄せられるご相談のなかでも、これはとりわけ多く、そして悩みの深いテーマです。家賃という収入が毎月入ってくる一方で、空室や老朽化、修繕費の負担、相続税の支払い、そして「自分に経営ができるのか」という不安。相反する思いのあいだで、答えを出せずに立ち止まってしまう方は少なくありません。
名古屋は持ち家率が高く、地元に賃貸物件を築いてこられた資産家の方が多い土地柄です。それだけに、一棟マンションを相続する方も多く、「周りに相談できる人がいない」「不動産会社に聞くと売却をすすめられそうで、本当のところがわからない」というお声をよくいただきます。
この記事では、相続手続きと不動産売買の両方を扱う司法書士兼宅地建物取引士、そして元銀行員という三つの立場から、相続した一棟マンションを「売るか・持ち続けるか」を判断するための物差しを、できるだけやさしい言葉で整理してお伝えします。どちらが正解かは、物件の状態とご家族の事情によって変わります。大切なのは、感情や勢いではなく、いくつかの視点を冷静に並べて比べること。その手助けになれば幸いです。なお、税務など個別の取扱いは事情によって変わりますので、本記事は一般的な考え方としてお読みいただき、具体的なご判断は最新の情報をもとに専門家にご相談ください。
1 「保有」と「売却」、それぞれのメリットと落とし穴
まずは、二つの選択肢がそれぞれどんな性格を持っているのかを、フラットに見てみましょう。
持ち続ける(保有して賃貸経営を続ける)場合の最大の魅力は、毎月の家賃という安定した収入が得られることです。立地がよく入居率の高い物件であれば、長期的に資産を生み続けてくれます。また、賃貸用の土地・建物は相続税の評価上、自用の不動産より一定程度低く評価される仕組み(貸家建付地・貸家の評価など)があり、要件を満たせば小規模宅地等の特例で評価をさらに抑えられる場合もあります。資産を持ち続けながら次の世代へ引き継いでいく、という選択にも意味があります。
一方で、落とし穴もあります。賃貸経営は「ほうっておけばお金が入る」ものではありません。空室が出れば収入は減り、入居者対応や管理会社とのやり取り、設備の故障への対応が日常的に発生します。とりわけ築年数の経った一棟マンションでは、いずれ外壁や屋上防水、給排水管といった大規模修繕が必要になり、数百万円から物件によっては千万円単位の出費が見込まれます。建築資材や工事費が高騰している昨今、この修繕費の負担は年々重くなっています。さらに、ローンが残っていれば返済も続きます。「経営の経験がないまま、突然これらを背負うことになった」という心理的な負担も、決して小さくありません。
売却する場合の魅力は、何といっても「まとまった現金が手に入り、悩みから解放される」ことです。相続税の納税資金を確保できますし、相続人が複数いる場合は、売却代金を分けることで公平に分割しやすくなります(換価分割)。将来の空室リスクや修繕費の心配、経営の手間からも解放されます。「気持ちの区切りがついて、ようやく前を向けた」とおっしゃる方も多くいらっしゃいます。
ただし、売却にも注意点があります。売れば家賃収入という資産は手放すことになりますし、売却益が出れば譲渡所得税の対象になります。なお、相続した不動産を相続税の申告期限の翌日から3年以内など一定期間内に売却した場合には、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例(取得費加算の特例)が使えることがあり、税負担を抑えられる可能性があります。こうした特例を使えるかどうかでも手取りは変わりますので、売却の「時期」も含めた検討が大切です。
このように、どちらにも良い面と注意すべき面があります。「家賃が入るから持っておけば安心」とも「売ってすっきりするのが正解」とも、一概には言えないのです。
2 売却か保有かを見極める——五つの判断軸
では、具体的に何を基準に考えればよいのでしょうか。当センターでは、おもに次の五つの軸で物件とご事情を整理することをおすすめしています。
第一に、立地です。 これは最も重要な物差しです。名古屋駅周辺やその沿線、栄・丸の内などの中心部は、再開発やリニア中央新幹線の開業への期待もあり、賃貸需要が比較的堅調に推移しています。こうしたエリアの物件は、保有を続ける価値も、売却したときの価格も期待しやすいといえます。逆に、駅から遠い郊外や、周辺人口が減少しているエリアでは、今後の空室リスクが高まりやすく、慎重な見極めが必要です。
第二に、建物の築年数と修繕の見通しです。 新しい物件ほど当面の修繕負担は軽く、保有を続けやすくなります。一方、築年数が経過し、近く大規模修繕を控えている物件では、「これから数百万円をかけて直し、その後も経営を続けるのか」という現実的な判断が求められます。修繕してもなお収益が見込めるのか、それとも修繕前の今のうちに売却するほうが手元に残るのか——ここは数字で比べる必要があります。
第三に、空室率と収支です。 現在どのくらい埋まっているのか、家賃収入から管理費・固定資産税・修繕費・ローン返済を引いて、手元に本当にいくら残っているのか。意外と、収支を正確に把握しないまま「なんとなく黒字のはず」と思い込んでいるケースがあります。実際の手残りを見える化することが、判断の出発点になります。なお、名古屋市内では、単身者向けの小型住戸を中心に供給が増え、エリアによっては空室が目立ちはじめているという指摘もありますので、ご自身の物件がどの層をターゲットにしているかも見ておきたいところです。
第四に、相続税と納税資金です。 一棟マンションは評価額が大きくなりやすく、相続税の負担も重くなりがちです。「相続税は高いのに、納める現金が手元にない」という場合、物件の一部または全部を売却して納税資金にあてる、という判断が現実的になることもあります。相続税の申告・納付の期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内ですので、売却を選ぶならこの期限から逆算した段取りが欠かせません。
第五に、相続人の状況と意向です。 相続人が一人なら自分の判断で進められますが、複数いる場合は「分けにくい一棟マンションをどうするか」が大きな論点になります。一人が引き継いで他の相続人に金銭を渡す代償分割、売却して代金を分ける換価分割など、方法によって最適な進め方が変わります。また、相続人に賃貸経営を続ける意思や時間的・心理的な余裕があるかどうかも、現実的にはとても重要な要素です。
この五つを並べてみると、「立地がよく、建物も比較的新しく、収支も安定していて、納税資金にも困らず、経営を続ける意欲がある」なら保有が有力ですし、逆の要素が重なるなら売却が現実的、という輪郭が見えてきます。多くの物件はこの中間にありますので、一つひとつの軸を丁寧に見ていくことが、後悔のない判断につながります。
3 名古屋の市場を踏まえて——専門家と一緒に「数字」で考える
最後に、名古屋という地域の特性と、専門家の活かし方についてお伝えします。
名古屋の不動産市場は、いま「二極化」が進みつつあります。中心部や交通利便性の高いエリアは、リニア開業を見据えた再開発の動きもあり、需要・価格ともに底堅く推移しています。一方で、郊外や築古の物件では、空室の増加や資産価値の下落が課題になりつつあります。日本全体では人口の減少が進み、相続にともなう空き家・空室の増加も見込まれます。賃貸物件も「住むための実需」と「投資としての需要」とで値動きの理由が異なり、立地によって資産価値を保てるかどうかの差が、今後さらに広がっていくと予想されます。「名古屋だから安心」「不動産だから値下がりしない」と一括りにできる時代ではなくなってきている、というのが正直なところです。
だからこそ、売却か保有かは、感覚ではなく「数字」で比べることが何より大切です。保有を続けた場合に今後得られる収入と必要になる支出、売却した場合の手取り額と税金——この両方を具体的な金額として並べて初めて、納得のいく判断ができます。
ここで、実際のご相談に近い事例を、プライバシーに配慮してご紹介します。名古屋市内にお住まいの60代の女性Bさんは、お父さまから市内の一棟マンションを相続されました。築年数が古く空室も目立ち、ローンの残債もあり、「経営の経験もないのに続けていけるのか」と不安を抱えてご相談に来られました。当センターでは、まず団体信用生命保険の有無を金融機関に確認して残債の扱いを整理したうえで、保有を続けた場合の収支見通しと、売却した場合の手取り・税金を、それぞれ具体的な数字にして並べてご説明しました。すると、近く必要になる大規模修繕の費用を考えると保有のメリットが小さいことが見えてきて、Bさんは「数字で見て初めて納得できた」とおっしゃり、ご自身の判断で売却を選ばれました。相続登記から売却活動までを一つの窓口で進められたことで、「あちこちに相談に行かずに済んで、本当に楽だった」と喜んでいただけました。
当センターの強みは、まさにこの「総合的な判断のお手伝い」にあります。司法書士として相続登記を、宅地建物取引士として不動産の売却や価格の見立てを、そして元銀行員として残債やローンの確認を——「法律のプロ・不動産のプロ・金融のプロ」という三つの専門性を一人の担当者が生かし、売却・保有のどちらかに誘導することなく、相談者さまにとって本当に有利な選択を、数字とともにご提案いたします。報酬は業務を可視化した明朗会計を心がけ、相続から売却までをまとめたプランもご用意しています。「売るか持つか」というご相談こそ、利害から離れて中立に判断できる専門家にお任せいただく価値が大きいと、私たちは考えています。
まとめ
相続した一棟マンションを「売るか・持ち続けるか」に、万人共通の正解はありません。保有には家賃収入や相続税評価上のメリットがある一方、空室・老朽化・修繕費・経営の手間という負担があります。売却にはまとまった現金や悩みからの解放、分けやすさという利点がある一方、収入を手放すことや譲渡所得税という側面があります。判断にあたっては、「立地」「築年数と修繕」「空室率と収支」「相続税と納税資金」「相続人の状況と意向」という五つの軸を、一つずつ丁寧に見ていくことが大切です。
そして名古屋では、市場の二極化が進むなか、「不動産だから安心」と決めつけず、保有と売却それぞれの将来を具体的な数字で比べる姿勢が欠かせません。
当センターは、名古屋市中区を拠点に、司法書士・宅地建物取引士・元銀行員という三つの専門性を生かした「相続と不動産の真の専門家」として、一棟マンションの売却・保有のご相談を、おひとりおひとりにあわせてお受けしています。どちらかに偏らず、相談者さまにとって最善の道を、じっくりとお話を伺いながらご一緒に探します。「まだ売ると決めたわけではない」——その段階からで構いません。どうぞ気軽に、最初の一歩をご一緒させてください。
※本記事は作成時点(2026年5月)の一般的な情報にもとづいて解説したものです。税務上の特例や評価方法の適用は個別の事情により異なる場合があり、制度や市場環境も今後変更される可能性があります。実際のご判断にあたっては、最新の情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。