未成年の子がいる外国籍の相続|親が代わりに署名できない理由を名古屋で解説
2026/10/30
はじめに|「子どもの分は、親の私が代わりに決めればいいのでは」
親だからこそ、子の代わりに決められない場面があります。それが遺産分割です。
働き盛りのご主人が亡くなり、相続人は奥様と小学生のお子さん。「家は私が相続して、子どもと一緒に住み続けたい。子どもの分は親の私がまとめて決めればいいですよね」――名古屋市中区のごとう司法書士事務所に寄せられる、若い外国籍のご家族からのご相談です。お気持ちはもっともですが、答えは「そのままではできません」です。遺産分割の話し合いでは、親と子の利益がぶつかるため、親は子の代理人になれないのです。
代わりに、家庭裁判所で「特別代理人」を選んでもらって、その人が子の代わりに話し合いに参加します。外国籍の方の場合は、さらに二つの注意があります。子が「未成年かどうか」が国籍で変わること、そして相続の分け方が本国法で決まることです。この記事では、名古屋市中区のごとう司法書士事務所が、なぜ親が代理できないのか、家庭裁判所で何が起き、どんな分け方なら認められるのか、そして外国籍の方ならではの違いを、手続きの流れに沿ってやさしくご説明します。
なぜ親は子の代わりに決められないのか|利益相反という考え方
親も子も同じ遺産を分け合う相続人なので、親が子の代理をすると、子の取り分を自分で決めることになるからです。
遺産分割協議は、相続人全員で「だれが何を受け取るか」を決める法律上の契約です。未成年の子は、自分一人では契約を結べません。普段の契約なら、親権者である親が子の代理人になります。ところが遺産分割では、親も子も同じ遺産を分け合う相続人です。親が子の代理人になると、親は「自分の取り分」と「子の取り分」の両方を一人で決めることになります。これが利益相反と呼ばれる状態で、日本の民法はこの場合、親に子の代理を認めていません。
なぜここまで厳しいのかといえば、子の財産を守るためです。「子の分は全部母が相続する」という協議書を母が子の代理人として作れば、子は何も受け取れないまま、しかも自分で異議を言えません。法律はこの形を認めず、第三者が子の側に立つ仕組みを置きました。
この仕組みは、親が信用できないから、ではありません。家族のためを思って「家は母に」と決めたい方がほとんどです。それでも手続きとしては、子の側に立つ人を立てて、分け方が子に不利でないことを家庭裁判所に確かめてもらう流れになります。なお、利益相反になるのは「親と子が同じ相続の相続人」の場合です。たとえば、祖父が亡くなり、父はすでに亡くなっていて、父の代わりに子が相続人になる(代襲相続)場合、母は相続人ではないので、母が子の代理人として協議に参加できます。「だれとだれの利益がぶつかっているか」が判断の分かれ目です。
特別代理人とは|家庭裁判所が「子の取り分を守る人」を選ぶ仕組み
特別代理人は、この相続の話し合いのためだけに、子の代わりをする人です。
特別代理人とは、親権者と子の利益がぶつかる行為について、家庭裁判所が選ぶ、子のための代理人です。遺産分割協議では、特別代理人が子の代わりに協議に参加し、協議書に署名・押印します。その協議が終われば役目は終わり、成年後見人のように続くものではありません。
だれがなれるかについて、名古屋家庭裁判所の案内では、資格は特に必要ないとされています。実務では、相続人ではない親族――たとえば子から見て祖父母やおじ・おばにお願いすることが多く、申立ての際に候補者を挙げます。ただし、家庭裁判所は候補者と子との関係や利害関係を見て適格性を判断しますので、同じ相続の相続人になる人は候補になりません。候補者が海外に住んでいる場合は、協議書への署名を現地で認証する手間が加わりますので、日本に住む親族に頼むのが現実的です。適当な親族がいなければ、司法書士などの専門家を候補者にすることもできます。
未成年の子が2人いる場合は、注意が必要です。子同士も同じ遺産を分け合うため、2人の利益もぶつかります。そのため、子1人につき1人ずつ、別々の特別代理人を選んでもらいます。申立ての費用も子1人ごとに必要です。
名古屋家庭裁判所での手続き|申立てから1か月、協議書の案が審査の中心です
申立ては子の住所地の家庭裁判所に行い、審査の中心は「協議書の案で子の取り分が守られているか」です。
申立てができるのは親権者や利害関係人で、申立先は子の住所地を管轄する家庭裁判所です。名古屋市内にお住まいなら名古屋家庭裁判所で、本庁では家事受付センターに書類を提出または郵送します。費用は、子1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(名古屋家庭裁判所では700円分)です。申立てから結果が出るまでの目安は、名古屋家庭裁判所の案内では約1か月です。
必要な書類は、申立書、子の戸籍謄本、親権者の戸籍謄本、特別代理人の候補者の住民票、そして利益相反の内容が分かる資料です。遺産分割の場合、この「資料」にあたるのが遺産分割協議書の案です。つまり、申立ての時点で「だれが何を受け取るか」をあらかじめ決めて、案として裁判所に出します。裁判所はこの案を見て、子の取り分が守られているかを審査します。ここが手続きの核心です。
審査の目安は、子に法定相続分に相当する財産が確保されているかどうかです。「全部を母に」という案は、子の取り分がゼロになるため、原則として認められません。一方で、家を母が取得する代わりに、預貯金を子に多めに配分する、母が子に代償金を払う、といった形で子の取り分が確保されていれば、家をまるごと母が取得する協議も通る可能性があります。子の生活を母が支えている事情を上申書で説明することもあります。どの形なら通るかは事案ごとの判断で、申立ての前に協議書の案を設計しておくことが、手続きを一度で終える鍵になります。
特別代理人が選ばれると、審判書が届きます。そのあと、母と特別代理人が協議書に署名・押印し、特別代理人の印鑑証明書と審判書を添えて、法務局への相続登記や銀行の手続きに進みます。協議書の内容を裁判所に出した案から変えると、審判の前提が崩れますので、案の段階で確定させておきます。
外国籍ならではの違い①|「未成年」の線引きが国籍で変わります
日本では18歳で成年ですが、韓国籍の方は19歳までが未成年です。子の国籍で線引きが変わります。
日本の民法では、2022年4月1日から成年年齢が18歳になりました。ところが、だれが未成年かは、その人の本国法で決まります(法の適用に関する通則法4条)。この通則法は、取引の場面では例外を置いていますが、相続や家族に関する行為にはその例外が使えません。つまり、遺産分割の場面で子が未成年かどうかは、子の国籍の国の法律で判断されます。
ここで差が出るのが韓国籍です。韓国民法の成年年齢は19歳です。日本で生まれ育った18歳の韓国籍のお子さんは、日本の感覚では「もう大人」ですが、遺産分割では未成年として扱われ、特別代理人が必要になります。「18歳になったから、本人が署名すればいい」と進めて、法務局や銀行で止まるケースがあり得ます。中国籍、フィリピン籍、ベトナム籍、ブラジル籍の方は18歳で成年ですので、日本と同じ線引きです。
もう一つ、親子の関係――親が子の代理人になれるか、どんな場合に代理が制限されるか――は、子と親の国籍が同じなら子の本国法で決まります(通則法32条)。韓国籍の親子なら韓国民法、中国籍の親子なら中国の法律です。これらの国の法律にも、親と子の利益がぶつかる行為に第三者を立てる仕組みがあり、日本に住む子については、名古屋家庭裁判所に申し立てて特別代理人を選んでもらうのが実務の進め方です。親と子の国籍が違う場合(日本人の母と韓国籍の子など)は、子がいつも住んでいる国、つまり日本の法律で判断します。
外国籍ならではの違い②|子の取り分は本国法で決まり、協議書の案に反映します
裁判所が「子の取り分が守られているか」を見るときの物差しは、亡くなった方の本国法の相続分です。
相続の分け方のルールは、亡くなった方の本国法で決まります(通則法36条)。亡くなったご主人が韓国籍なら韓国民法で、配偶者の相続分は子の1.5倍です。妻と子1人なら、妻が5分の3、子が5分の2になります。日本の民法(妻2分の1、子2分の1)とは違います。ベトナム籍なら、預貯金については妻と子が均等で、健在ならベトナムにいるご両親も同じ順位で相続人に加わります。
この違いは、特別代理人の手続きに直接ひびきます。家庭裁判所が協議書の案を審査するとき、「子の取り分が守られているか」の物差しになるのが、本国法で計算した法定相続分だからです。日本法の割合で案を作ると、物差しがずれてしまいます。申立ての際には、本国法で相続分がどうなるかを示す資料をあわせて用意し、その割合をもとに子の取り分を確保した案を作ります。
相続人の確定にも本国の書類が要ります。亡くなった方が韓国籍なら、家族関係証明書や除籍謄本を取り寄せて翻訳し、子の戸籍謄本の代わりには、子の住民票や本国の出生証明書などを使います。フィリピン籍やベトナム籍の方の相続では、母国に住む亡くなった方のご両親が相続人に加わることがあり、その場合は海外の相続人の署名の認証も必要になります。特別代理人の手続きと本国書類の収集は、同時に走らせるのが時間を無駄にしないコツです。
家と預貯金の手続きと、元気なうちの備え|特別代理人を要らなくする遺言
特別代理人が選ばれれば、家の名義変更も預貯金の払い出しもできます。遺言があれば、この手続き自体が要りません。
特別代理人の審判書と協議書がそろえば、家の相続登記と預貯金の相続手続きに進めます。家を母の名義にする相続登記では、協議書・審判書・特別代理人の印鑑証明書を添え、2026年10月5日からは母の国籍の申出もあわせて行います。登記が終われば、家に住み続けることも、将来売ることも自由です。預貯金は、銀行所定の書類に特別代理人が子の代わりに署名して払い出しを受けます。子が受け取る分は子の名義の口座で管理し、親が使い込んだと言われないよう、使い道の記録を残しておきます。
特別代理人を立てずに進められる場面もあります。法定相続分どおりの共有で相続登記をする場合は協議が要らないため、特別代理人も不要です。ただし外国籍の方の相続では、その割合を本国法で計算し、家が母と子の共有になるため、将来売るときに子の持分についてあらためて家庭裁判所の関与が必要になることがあります。「とりあえず共有」は、問題を先送りするだけになりがちです。
いちばんの備えは遺言です。ご主人が「自宅は妻に相続させる」という公正証書遺言を残していれば、遺産分割協議そのものが不要になり、特別代理人の手続きも要りません。韓国籍の方なら、遺言で相続の準拠法を日本法に指定しておくこともできます。小さなお子さんがいる外国籍のご夫婦ほど、遺言の効果は大きいのです。ご夫婦がお元気なうちに、お互いに遺言を作っておくことをおすすめします。
よくある質問|未成年の相続人がいる外国籍の相続で多いご質問
代理の可否、18歳の扱い、手続きの期間、分け方について短くお答えします。
Q. 母親の私が、子どもの代わりに遺産分割協議書に署名できますか?
いいえ、できません。母と子が同じ相続の相続人になる場合、母が子の代理をすると自分と子の取り分を一人で決めることになり、利益相反にあたるからです。家庭裁判所で特別代理人を選んでもらい、その人が子の代わりに署名します。
Q. 子どもは18歳です。韓国籍ですが、本人が署名すれば済みますか?
いいえ、特別代理人が必要です。未成年かどうかは子の本国法で判断され、韓国民法の成年年齢は19歳です。日本の成年年齢(18歳)とは違いますので、18歳の韓国籍の子は遺産分割では未成年として扱われます。
Q. 特別代理人の選任には、どのくらいかかりますか?
名古屋家庭裁判所の案内では、申立てから結果まで約1か月が目安です。費用は子1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手で、申立てには遺産分割協議書の案と、特別代理人の候補者の住民票などが必要です。
Q. 家を全部母の名義にする協議は、認められますか?
子の取り分がゼロになる案は、原則として認められません。家を母が取得する代わりに預貯金を子に配分する、母が子に代償金を払うなど、本国法の法定相続分に相当する取り分を子に確保した案なら、認められる可能性があります。申立ての前に案を設計することが大切です。
まとめ|「親が決めればいい」ではなく、子の取り分を守る形で進めます
特別代理人の選任、本国法での線引きと相続分、協議書の案の設計。この三つで手続きは進みます。
未成年の子がいる相続では、親と子が同じ遺産を分け合う相続人になるため、親は子の代理人になれません。家庭裁判所に申し立てて特別代理人を選んでもらい、その人が子の代わりに遺産分割協議に参加します。名古屋家庭裁判所では、子1人につき収入印紙800円分と連絡用の切手が必要で、結果まで約1か月が目安です。審査の中心は遺産分割協議書の案で、子に法定相続分に相当する取り分が確保されているかが見られます。外国籍の方は、未成年かどうかが子の本国法で決まり(韓国籍は19歳まで未成年)、相続分は亡くなった方の本国法で計算するため、協議書の案もその割合をもとに作ります。遺言があれば協議も特別代理人も不要になります。
名古屋のごとう司法書士事務所は、外国籍の方の相続について、本国法での相続分の確認と本国書類の収集、特別代理人の申立書類の作成と協議書の案の設計、相続登記、預貯金の手続き、そして相続した家の売却まで、司法書士兼宅建士としてひとつの窓口でお手伝いしています。小さなお子さんを抱えて手続きに通う時間がない方ほど、まとめてお任せください。ご相談の際は、固定資産税の納税通知書と、ご家族の国籍と年齢が分かるメモ、特別代理人をお願いできそうな親族の心当たりをお持ちいただければ、協議書の案の方向性と手続きの日程を、その場でお示しします。
ごとう司法書士事務所は、外国籍の方の相続手続きと相続した不動産の売却をひとつの窓口でお手伝いしている、名古屋市中区の司法書士・宅地建物取引士の事務所です(代表:後藤勝良)。所在地は名古屋市中区丸の内三丁目15番3号TCF丸の内ビル6階。地下鉄「久屋大通駅」(桜通線側1番出口)から徒歩5分、「丸の内駅」(桜通線側4番出口)から徒歩6分です。受付は平日9時から19時まで、土日祝日も事前のご予約でご相談いただけます。ご相談は基本無料です。
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※本記事は2026年10月時点の法令・制度・裁判所の案内に基づいて作成しています。特別代理人の選任や協議書の案の審査は家庭裁判所・事案によって異なりますので、実際のお手続きの際は最新の情報をご確認ください。

