空き家の活用ができない事例とその対策【名古屋のごとう司法書士事務所】
2020/03/06
空き家の所有者が高齢で管理・活用できない場合
親が高齢で施設に入っており、自宅が空き家になっています。
この異様な事例は、名古屋でも多くみられます。
親が売ることには反対をするので、すぐに売却もできない。しかし、たまに掃除に行くぐらいで誰も家を理をすることもできない。このようなご相談はよくお聞きします。空き巣や放火など、そのままの状態では不安があると思います。
身動きがとれなくなる前にできることはあります。また、既に親が認知症などで既にどうすることもできない場合の対処法にも言及したいと思います。
高齢化社会を迎える日本で、名古屋市内をはじめ全国各地で同様の事例が散見されます。ご自身の状況に合わせて参考にしてみて下さい。
以下、名古屋の司法書士が解説します。
1 親に意思能力や判断能力がある場合
親が認知症等により意思能力がない状態になる前の対策のお話です。
親御様の大切な資産である不動産をいかに守っていくか。とても重要な問題です。
とり得る対策をしっかりと講じることで、慌てずに親御様の介護に専念できるのです。
この段階では、かなりとり得る選択肢があるので、じっくりとご本人様やご家族の希望に沿った方法を検討しましょう。
(1) 財産管理を委託する契約をする
財産管理委託契約のようなものを結んで、代理人に委任して任せる方法です。これは、単なる私人間の契約ですので、親が元気な状態であれば、いつでも可能です。
何をどこまで任せるかは契約で自由に決めます。親と子で契約をする場合もあるでしょうし、管理の専門業者と契約することもあるでしょう。いずれにしても、包括的な契約内容になっている場合は、重要な場面では個別に再度委任契約等をして確認する方が良いでしょう。例えば、売却をする時は、売却時に改めて委任状等を用意することが望ましいと思います。
しかし、財産管理委託契約は、委託者本人が契約後に判断能力が衰えた際に、受任者に自由に管理をされてしまうリスクがあります。判断能力の衰えが契約無効に直結しないので、本人不在で不適切な行為をされる恐れがあります。この点が後述する任意後見契約とは大きく異なります。
基本的には当事者だけの契約ですから気軽にできそうですが、その分使い方を間違うとトラブルになるので気をつけましょう。
(2) 任意後見契約を結ぶ
任意後見契約は、本人が後見制度を利用するときに備えるものです。
本人が認知症になり意思能力がない状態になると、新たに契約等をすることができません。財産管理委託契約等や売却の売買契約をすることもできません。厳密には本人が施設との契約をすることもできません。
しかし、実際の実務では子が代わりに代筆をして、契約をしているケースは多くあります。その場合は、その子が身元保証人になって何かある場合の支払い等について保証していることが多いと思います。
したがって、何らかの理由で親の口座から支払いができない事態になれば、子に請求がいく可能性があります。
さて、任意後見契約の話に戻りますが、この任意後見の特徴は、本人が後見人を選択できる点と何をどのように任せるかを具体的に元気なうちに伝えることができる点です。
任意後見と対比されるものに、「法定後見」というものがあります。これは、本人が既に判断能力が弱って後見制度を利用するために家庭裁判所に後見申立てをして、裁判所から後見人等が選ばれるという制度です。何も対策をしてこなかった場合で、親に判断能力がなくなり、施設入所のため銀行の定期預金を解約したいときなどに利用されます。
この法定後見制度では、後見人に親族がつくこともありますが、専門職として司法書士や弁護士等が裁判所からえばれることがあります。その決定権は裁判所にあります。
したがって、専門職後見人等は、良くも悪くも本人やその家族の歴史などを知りません。一般的には親族等の意見は参考にしますが、後見人の裁量でいろいろなこと決めていきます。その場合、本人の意思がわからない以上、なかなか昔の発言等を親族等から聞いて、それを尊重する行動には慎重になるでしょう。相続税対策のようなものは基本的には難しいと持って方が良いと思います。
つまり、本人の意思決定の尊重をしつつ、選ばれる後見人は自分で決めることができるのです。将来入りたい施設や送りたいい老後の生活を具体的に伝えることができます。
なお、任意後見契約は、公正証書で作成する必要があります。
また、任意後見の良いところは、後見人を監督する任意後見監督人がつくことです。これによって、後見人は任意後見監督人への報告義務が生じ、裁判所と任意後見監督人の監督下に置かれます。本人の判断能力がない場合でも、代わりに監督人と裁判所が適切な後見業務を監督してくれます。後見人は不適切な後見業務を行えば、最悪、解任されます。そして新たに後見人を裁判所が選任する形になります。
このようにして任意後見人は、裁判所等の監督のもと、空き家など不動産の管理や売却等を検討していくことになります。その際は、任意後見契約の内容に沿った管理等を後見人が行う形になります。つまり本人があらかじめ決めておいた管理等を行うことになります。
(3) まとめ
(1)財産管理委託契約や(2)任意後見契約のいずれにしても、本人の意思能力がある状態でしかできません。契約時の意思能力が問題になるので、必ずしも一般的な判断能力や要介護認定等とは直接リンクしませんが、契約時には意思能力が必ず必要になります。
また、財産管理委託契約と任意後見契約は併用することも多く、さらに遺言書の作成もしておけば、生前から後見状態、死亡後までのすべての対策を行うことができるので安心できます。少なくとも、ほとんどの方に任意後見契約と遺言書作成はお勧めできる対策です。元気なうちは、財産管理契約を適用し、判断能力が衰えてからは任意後見を利用する。そして、亡くなった後は、遺言書に沿って遺産を承継させる。遺言執行者も場合によってはつけてもいいでしょう。
財産管理委託契約は、任意後見契約とセットであればよいですが、財産管理委託契約を単独でする場合は少し注意が必要です。契約後に本人に判断能力がなくなった場合、どうするのか?民法の原則でいくと、契約は有効のままです。本人が受任者を管理や監督できない状態になるので、受任者をコントロールできません。つまり、受任者が不適切な管理等をしたり、不当にお金を流用する可能性があります。権利濫用のおそれがあるのです。
この点、実際にトラブルになることが予想されます。
判断能力が衰えた時点で任意後見に切り替わるように準備をしておけば、その段階で任意後見契約の効力が発生し、後見人は任意後見監督人と裁判所の監督下に置かれます。権利濫用を防ぐことができるのです。
特別な理由がなければ、財産管理委託契約と任意後見契約のセットで利用することをお勧めいたします。
2 既に親の判断能力が衰えている場合
何か必要な契約の締結や解約等が必要になった時点で、既に親の判断能力が衰えており契約等が難しい場合、法定後見制度を利用することになります。
法的には親子関係では当然に委任関係にはならないので、子が親を代理することはできません。代理権のない無権代理はトラブルのもとですのから避けるようにしましょう。
法定後見制度の利用は、既に親の判断能力が相当程度弱まった段階であえて行う場合なので、何か目的があることが多いと思います。例えば、自宅を売却して施設入所費用や今後の生活費に充てたい、既に入所して空家になった自宅の管理ができないので売却したいなど、さまざまな理由が考えられます。
法定後見制度を利用するには、家庭裁判所への開始の申立てが必要です。法定後見には、本人の判断能力の状態によって、「後見」「保佐」「補助」の3類型があります。1番判断能力が不十分だと判断されると「後見」、次が「保佐」、最後に「補助」になります。この判断は申立て後に裁判所が決定します。申立ての段階では確定的にはわかりません。
本人の配偶者や子などの親族も後見人等になることはできます。後見開始の申立て時に後見人等候補者を任意にあげることが可能です。しかし、誰を後見人に選ぶかは裁判所が決定します。親族が後見人等につく場合は、司法書士や弁護士などの後見監督人が選任されることがあります。
後見人等が選任されてからは、本人の財産等は裁判所の監督下のもとに後見人が管理していく形になります。
今回の空き家の管理については、後見人が本人の代わりに適切に行う義務を負います。売却については、その必要性を後見人が検討し、裁判所と連携をしながら売却手続きを進めていく形になります。
まとめ
以上、名古屋の司法書士が、空き家の管理等について所有者本人が適切にできない場合について事例に分けて解説しました。また、その対処法についても触れてみました。
今後ますます進んでいく高齢化ですので、誰もが他人事ではすまなくなってきました。
親が一定の年齢になったら、早めにシュミレーションをしておきたいものです。年齢を重ねると誰しも体の衰えがあります。急変してからでは、考える時間もなく、選択肢も限られます。相続対策同様に、高齢になった親の将来については、早め早めに準備を進めたいですね。
名古屋市内の町中でも空き家を見かけます。周辺住民への影響に限らず、不動産所有者が負担する責任もあります。通行人や隣地の人に損害を与えれば、損害賠償請求を受ける可能性もあります。
十分な対策をして、安心できる老後が送れるようにしましょう。内容が多義にわたり、また専門的になるので、不明な点は専門家へ一度ご相談してみるのも良いでしょう。