【マネしたくなる個人間の不動産売買②~「ちょっとお得」に見える取引の裏側と、安全に進めるためのポイント~】名古屋のごとう司法書士事務所
2025/05/26
まずはじめに
近年、不動産の売買において「不動産会社を通さず、当事者同士で契約したい」という方が増えてきました。たとえば、「親から子へ土地を売却する」「兄弟姉妹で共有していた実家を一人に譲り渡す」「古くからの友人に使っていない土地を売りたい」といったように、家族や知人とのあいだで不動産をやり取りする機会は、決して珍しいものではありません。
また、最近ではインターネットの普及により、売買契約書のひな型や登記手続きの流れが紹介されているサイトも多く、個人同士の売買を「手軽にできそう」と感じる人も少なくありません。SNSやブログなどでも、「仲介手数料がかからないからお得」「不動産業者を挟まないので話が早い」といった体験談が語られ、それを読んで「私もマネしたい」と考える方も多いようです。
たしかに、信頼できる相手とのあいだで売買ができれば安心感がありますし、費用や手間を抑えられるというのも魅力的です。しかし、その一方で、「専門家を通さなかったために、後からトラブルになった」「税金が想像以上にかかってしまった」「法務局で登記申請が通らなかった」といったケースも少なくありません。
とくに相手が家族や親しい間柄であるほど、「きっと大丈夫だろう」「細かいところまでは気にしなくていい」と思ってしまいがちですが、不動産の売買というのは法律行為であり、金銭が動き、不動産の名義が変わる大切な手続きです。どんなに親しい相手とのあいだであっても、内容が曖昧だったり、手続きに不備があったりすれば、後々になって大きな問題になる可能性があります。
この記事では、実際にあったトラブルの事例をもとに、個人間の不動産売買を安全に進めるためのポイントをわかりやすくご紹介します。「マネしたくなる」ような事例の裏側にある注意点を、司法書士兼宅地建物取引士の立場から丁寧に解説していきますので、これから不動産の売買をお考えの方は、ぜひ参考になさってください。
1.なぜ個人間売買が注目されているのか?
個人間で不動産を売買したいというニーズは、ここ数年で目に見えて増えてきています。その背景には、社会的・経済的な要因と、情報環境の変化が大きく影響しています。
まず、多くの方が「仲介手数料を節約したい」という理由を挙げます。不動産会社に依頼して売買を行うと、通常は売主・買主のいずれか(または双方)が仲介手数料を支払うことになります。売買価格の3%+6万円(税別)が上限とされているため、たとえば2,000万円の物件なら66万円以上の費用がかかる可能性があります。この金額は決して小さくなく、「知り合い同士なら、わざわざ払わなくてもいいのでは?」と考える人が増えているのです。
さらに、相続などで不動産を取得した方が、その物件を親族や知人に売却したいと考えるケースも増えています。特に空き家問題が深刻化する中で、「使っていない実家を兄弟のひとりが買い取る」「親の土地を子が買い受ける」といった身内間のやり取りが現実的な選択肢となっているのです。
また、インターネットやSNSの影響も大きいといえます。「個人売買の方法」「自分で登記するやり方」といった検索ワードで調べると、契約書の雛形や体験談、注意点を解説するサイトが多数ヒットします。その中には「専門家を使わずに安く済ませた」「トラブルなく手続きができた」といった成功談もあり、そうした情報に触れた人が「自分にもできるのではないか」と感じるのです。
近年では、不動産の個人間売買を仲介するマッチングサイトも登場し、「自分で売りたい人」と「自分で買いたい人」をつなぐ仕組みが整いつつあります。これにより、「プロに頼らなくても、自分たちで完結できる」というイメージがさらに強まりつつあるのです。
さらに、人とのつながりのあり方も変化しています。たとえば地域コミュニティや親戚関係が密接な地方では、「昔からの知り合いだから」「口約束でも通じる相手だから」といった信頼関係に基づいて取引を進めようとする傾向も見られます。特に高齢者の中には、「昔はこんなに手続きが厳しくなかった」「紙に書いて渡せば済んだ」といった記憶をもとに、簡単に考えてしまうことも少なくありません。
このように、コスト削減の魅力、情報の手に入りやすさ、相手との信頼関係、そして時代の流れが重なって、個人間売買はますます注目されるようになってきています。しかし、いくら身近な存在との取引であっても、不動産売買はれっきとした法律行為であり、登記や税金といった重要な要素が関わってきます。これらの手続きには専門的な知識が求められるため、表面的には簡単に見えても、実は多くのリスクをはらんでいることを忘れてはなりません。
次の項目では、こうした個人間売買に潜む「実際に起きたトラブル」の事例をご紹介し、なぜ慎重な対応が必要なのかをご説明していきます。
2.実際にあったトラブル事例から学ぶ
個人間での不動産売買は、手間やコストを抑えられるという点で魅力がありますが、その一方で、後になって大きな問題が発覚するケースも少なくありません。実際に司法書士事務所に寄せられた相談には、当事者間では予想できなかったようなトラブルが数多く存在します。以下では、特に多い3つの実例を紹介しながら、そこから学ぶべき教訓について解説していきます。
(1)価格設定の誤りで贈与税が課税された事例
あるご家族のケースです。父親が所有していた土地を、成人した息子に「売る」という形で名義変更したいという相談でした。父親としては「できるだけ息子に安く渡したい」という思いがあり、時価で2,000万円程度の土地を、500万円という低価格で売買契約を結びました。一見すると、家族思いの温かいやりとりのように見えます。
ところが後日、税務署から「実質的には贈与である」との指摘が入り、差額の1,500万円について贈与税が課税される結果となってしまいました。実際には贈与ではなく売買のつもりであっても、市場価格から大きくかけ離れた金額で取引すると、税務上は「売買の仮装」と判断される可能性があります。
このように、価格の決定に法的な根拠が欠けていると、家族間でも想定外の納税義務が生じることがあります。適正価格の設定には、不動産取引に精通した専門家によるアドバイスが不可欠です。
(2)契約書の不備により引渡しが混乱した事例
別のケースでは、古くからの友人同士が空き家付き土地の売買契約を行いました。契約書はインターネット上の雛形をそのまま利用し、お互いに署名・押印して手続きを進めました。
しかし、契約書には「代金支払いの期日」や「所有権の移転時期」「固定資産税の負担区分」「境界確認の有無」など、不動産取引において必要な基本的事項の記載が漏れていました。結果として、引渡し時期や費用負担の認識に食い違いが生じ、感情的な対立に発展してしまいました。
不動産契約書には、民法や宅建業法に基づく実務的な要素が多く含まれています。単なる「合意の証明」だけではなく、「後の紛争を予防するための記録」としての役割を果たすため、プロの視点で内容を整える必要があります。
(3)登記手続きのミスで法務局申請が却下された事例
最後に、売主が親戚、買主が姪という親族間取引の事例です。費用を抑えるため、当事者自身で法務局へ名義変更の登記申請を試みました。ところが、必要書類の不備、署名捺印のミス、法定添付書類の形式不適合など、複数の点で不備があり、法務局から再提出の通知を受けました。
その後も何度か再提出を繰り返したものの、最終的には期限までに手続きが完了せず、再び一からやり直しとなりました。その間に固定資産税の納税通知が届き、名義変更が完了していないために売主側が納税義務を負うことになり、双方の間で不満が生じました。
登記手続きは一見すると単純なようでいて、実際には細かな形式的要件や添付書類の正確性が求められます。とくに、住所変更があった場合の住民票の附票や、所有権移転の原因証明情報の扱いなど、実務的な判断が必要な場面が多く存在します。
◆ トラブルから得られる教訓
これらの事例に共通しているのは、「相手との信頼関係がある」「簡単に済ませたかった」という気持ちから、専門的なチェックを受けずに進めてしまった点です。結果として、後から税金の負担が発生したり、契約内容を巡って争いが生じたり、登記が滞って不動産の処分ができなくなったりと、かえって手間と費用がかかる結果となっています。
個人間売買であっても、いや、個人間だからこそ、プロによる正確な確認とサポートが重要です。関係が近いほど、トラブルが生じた際に感情的になりやすく、関係の修復が困難になる傾向もあります。
次章では、こうしたリスクを回避し、個人間売買を円滑かつ安全に進めるための具体的なポイントについてご紹介します。
3.個人間売買でも『専門家の関与』が鍵
ここまでの事例で見てきたように、たとえ親しい間柄であっても、不動産の個人間売買には多くのリスクが潜んでいます。こうしたリスクを回避し、安心・安全な取引を実現するには、「専門家の関与」が何より重要です。「専門家に依頼するのは大げさ」「お金がかかる」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、むしろ専門家をうまく活用することで、将来的なトラブルを未然に防ぎ、結果的に時間と費用の節約にもつながります。
では、個人間売買において、具体的にどのような場面で専門家が力を発揮するのか、司法書士兼宅地建物取引士の立場から詳しくご説明いたします。
(1)契約書のチェック・作成でトラブル予防
不動産の売買契約書は、たとえ身内同士の取引であっても、きちんと法的な観点から作成しなければなりません。特に、次のような項目は法律上・実務上、非常に重要です。
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売買代金と支払い方法、期日
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所有権移転の時期と条件
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固定資産税や管理費などの費用負担区分
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瑕疵担保責任(売買後の不具合への対応)
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境界確認の有無、地積測量図の添付
これらの要素が曖昧だったり、抜け落ちていたりすると、後になって「言った・言わない」の争いになりかねません。とくに契約書の文言には法律的な裏付けが求められるため、単なる雛形のコピーでは対応しきれないことが多々あります。
司法書士は、不動産取引に関する法律知識を有しており、契約書の作成やチェックを通じて、当事者双方が納得のいく公正な内容に整える役割を担っています。また、宅地建物取引士としての資格も併せ持つ司法書士であれば、不動産業者が作成する重要事項説明書の観点からもアドバイスできるため、実務的な補強も可能です。
(2)適正な価格設定と税務リスクへの配慮
個人間売買では、価格設定を当事者の話し合いで決めることが多く、そこに市場価格との乖離が生じると、税務上のリスクが生まれます。特に、相場より著しく安い金額での取引は、税務署から「贈与」とみなされ、贈与税が課されるケースが頻繁に見られます。
たとえば、「親から子へ」「祖父母から孫へ」といった関係で、善意で価格を下げた場合であっても、税務署は形式ではなく実質で判断します。これを防ぐには、近隣の売買事例や路線価、公示地価などを基に、ある程度客観的な価格の根拠を持つことが求められます。
宅地建物取引士の資格を持つ司法書士であれば、取引の適正価格の目安や、税務上の評価額とのバランスを考慮したアドバイスが可能です。必要に応じて、不動産鑑定士や税理士と連携しながら、過不足のない価格設定を支援します。
(3)登記手続きの確実な完了で権利保全
不動産売買の最終ゴールは、「名義の変更=所有権移転登記の完了」です。登記を正しく行わなければ、買主は法的にその不動産の所有者として認められません。また、登記が完了しない限り、売主の名義のままとなるため、税金の納付先や権利関係が整理されず、さまざまな問題が生じます。
登記手続きでは、次のような書類が必要になります:
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売主の登記済権利証または登記識別情報
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売買契約書の写し
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印鑑証明書や住民票
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固定資産評価証明書
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相続登記が未了の場合は、相続関係説明図や戸籍書類一式
これらを適切に揃え、法務局の定める様式や要件に合致させて申請するのは、決して簡単な作業ではありません。とくに不動産の相続や住所変更、共有状態が絡む場合は、さらに手続きが複雑になります。
司法書士は、不動産登記の専門家として、こうした書類の整備と申請を一手に引き受け、正確かつ迅速に登記を完了させることができます。加えて、本人確認や意思確認といった登記に関する法律上の要件もクリアするため、取引全体の信頼性が担保されます。
◆ 信頼関係があるからこそ、プロの手を借りる意味
「家族だから安心」「長年の友人だから大丈夫」という気持ちは理解できますし、実際に円滑に進むケースもあるかもしれません。しかし、だからこそ後から争いになったときの精神的なダメージは大きく、長く尾を引くこともあります。
専門家が間に入ることで、当事者同士が直接交渉するストレスが減り、第三者的な視点から公平な条件が整えられることは、信頼関係を壊さないためにも有効です。法的にも実務的にも、「事前の確認」がトラブルを防ぐ最大の防御策なのです。
次の「まとめ」では、こうした個人間売買における要点を整理し、安全な取引を実現するためのアプローチをご紹介します。
まとめ
不動産を親族や知人など、信頼できる相手と個人間で売買するという選択は、確かに費用や手間を抑えられるという点で魅力的です。仲介業者を通さず、顔の見える相手と直接やり取りができることに安心感を覚える方も多いでしょう。実際に、こうした取引がスムーズに進むケースもあり、「マネしたくなる」気持ちになるのも自然なことです。
しかし、記事内で詳しくご紹介したように、不動産の売買は単なる“話し合い”や“口約束”だけでは成立しません。法律に則った正確な契約、税務上の配慮、登記の手続き――これらすべてが正しく行われてはじめて、当事者双方にとって安心できる取引となるのです。たとえ相手が家族であっても、法的な手続きはきちんと踏む必要があります。
特に注意したいのは、「自己判断でやってみたけれど、思った以上に大変だった」「ネットの情報だけでは分からない部分が多かった」という声が非常に多いことです。不動産の売買は一度成立すれば、その後に取り消すことが難しく、万が一問題が起きた場合、解決には相当な労力と費用が必要となることもあります。
そして何より、家族や親しい人との関係にヒビが入ってしまうような結果だけは避けたいものです。ちょっとした誤解や認識のズレが、後々大きなトラブルに発展してしまうこともあるのです。
だからこそ、私たち司法書士(兼宅地建物取引士)のような専門家の存在が重要になります。契約書の作成から登記、税務上の注意点まで、法律と実務の両面からサポートすることで、当事者の不安や手間を大きく軽減できます。ただの書類作成代行ではなく、個々の事情に応じた「オーダーメイドの安心」を提供することが、私たちの仕事です。
とりわけ、高齢の方や不動産に慣れていない方にとっては、取引の流れが見えにくく、不安も多いことでしょう。そういった方にも「わかりやすく丁寧に説明し、一緒に確認しながら進める」ことを心がけて対応しております。大切な不動産の売買だからこそ、最初から最後まで安心して任せられる環境が必要です。
「個人間だからこそ、きちんとやっておきたい」――この視点を持つことで、トラブルを未然に防ぎ、良好な人間関係を保ちながら資産の整理を行うことができます。この記事を読んで、「もしかしたら私のケースにも当てはまるかも」と感じた方は、ぜひ一度、専門家にご相談いただくことをおすすめします。