【マネしたくなる個人間の不動産売買① ~成功する人はここが違う!リスクを減らすためのポイント~】名古屋のごとう司法書士事務所
2025/05/19
まずはじめに
最近では、不動産の売買を不動産会社に依頼せずに、個人同士で直接行う「個人間売買」が静かな広がりを見せています。背景には、インターネットの普及や、書類のテンプレートが簡単に手に入るようになったこと、また、不動産会社を通すと発生する仲介手数料(売買価格の約3%+6万円+消費税)を節約したいという思いがあるようです。
実際に、「親から土地を買った」「友人に家を売った」「知人に空き家を譲った」など、家族や親しい間柄で不動産のやり取りをするケースは少なくありません。中には、何の問題もなくスムーズに取引が完了する事例もあります。そういった事例を見ると、「自分たちも同じようにできるはず」と思われるかもしれません。
しかし一方で、こうした個人間取引には見落とされやすい法律上・登記上・税務上のリスクがいくつも潜んでいます。たとえば、契約内容を曖昧なままにして後から「話が違う」と揉めてしまったり、名義変更(登記)がされていないために法的に無効とされてしまったり、税金の申告や納税を忘れて追加課税されてしまうといったトラブルも決して珍しくはありません。
特に、買主や売主の一方が高齢である場合、取引の複雑な流れや専門的な用語に不安を感じる方も多く、「何となく進めたけれど、これで本当に大丈夫だったのか心配…」という声をよく耳にします。身近な人との取引であるがゆえに、遠慮や油断が生じ、結果として後悔の残るものになってしまうこともあるのです。
この記事では、司法書士であり宅地建物取引士でもある筆者が、専門家の立場から、個人間で不動産を売買する際に注意すべきポイントや、失敗しないための工夫について、できる限りわかりやすくお伝えしていきます。「費用を抑えつつも、安全で納得のいく取引をしたい」という方にとって、有益な情報となることを願っています。
また、家族や親族間での取引が検討されている方にとっては、「お金のことをはっきり話しづらい」「契約書を交わすのは気が引ける」といったお気持ちもあるかと思います。そうした方々にも配慮しながら、円満で安心できる取引にするために必要なステップを、丁寧にご紹介いたします。
不動産は人生で何度もない大きな資産のやりとりですから、後悔のない判断ができるよう、まずは基礎知識をしっかり押さえておきましょう。
① 信頼関係だけでは危ない?契約書の重要性
不動産の個人間売買において、相手が親族や長年の友人など、もともと信頼関係のある相手であることが多いため、どうしても「口約束でも大丈夫だろう」「トラブルになるはずがない」と考えてしまいがちです。確かに、お互いの人柄をよく知っているからこそ安心して取引に進めるという一面はあります。しかし、高額な不動産の取引においては、信頼関係だけでは決して十分とは言えません。
不動産売買は、単なる物品の売買とは違い、法的に厳格な手続きが求められる契約行為です。特に土地や建物といった不動産は、金額が数百万円〜数千万円規模になるのが一般的であり、人生に何度もない大きな取引です。このような重大な契約において、取り決めを口頭だけで済ませてしまうと、将来的に認識のズレが生じたときに「言った」「言わない」の水掛け論になってしまい、関係性にヒビが入ってしまうことさえあります。
たとえば次のような事例があります:
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引渡しの時期について「来月のつもりだった」「年内でいいと思っていた」と双方で食い違っていた
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支払方法について「一括の予定だった」「分割でもいいと聞いた」と主張が対立した
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家の中の設備(エアコンや照明など)の残置について事前に話がなく、引渡し後にトラブルになった
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売主が知らずに売った建物の不具合(雨漏りや白アリ被害)を、後から買主が知って「瑕疵がある」と訴えた
これらの問題は、事前に売買契約書をきちんと作成し、双方の合意事項を文書に残しておけば未然に防げるものでした。契約書は、単なる形式的な書類ではなく、「後々の争いを防ぐための合意の証拠」として非常に重要な役割を果たします。
不動産売買契約書には、最低限次のような項目を記載しておくことが望ましいです:
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売買の対象となる不動産の表示(登記簿に基づいた正確な記載)
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売買代金とその支払方法(手付金・残代金・支払期日など)
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所有権移転の時期および引渡しの時期
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登記手続きの方法や費用負担の割合
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瑕疵担保責任(契約不適合責任)に関する取り決め
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固定資産税等の清算方法
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契約違反時の解除条項や損害賠償に関する定め
特に、最近の民法改正(令和2年4月施行)によって「瑕疵担保責任」という言葉は「契約不適合責任」に変わり、より明確に契約内容との一致が求められるようになっています。これにより、契約書の内容がより一層重要になったとも言えるでしょう。
また、親族間や相続を伴う不動産売買の場合、「贈与とみなされて贈与税が課税されてしまうリスク」もあります。契約書の内容や売買価格が市場価格から大きく逸脱していないかを、あらかじめ専門家に確認してもらうことで、思わぬ税務リスクを回避することができます。
信頼関係があるからこそ、あいまいな取り決めを避け、文書にして明確に合意しておくことが、互いの信頼を守ることにもつながるのです。契約書を作ることは「相手を疑うこと」ではなく、「お互いに安心して取引を進めるための礼儀」であるという意識を持つことが、個人間取引の成功への第一歩と言えるでしょう。
② 売買代金の支払いと所有権移転登記のタイミング
不動産の売買において、代金の支払いと所有権の名義変更(所有権移転登記)は、取引の最も重要な局面です。どちらが先でもトラブルの原因になりやすく、「お金を払ったのに名義が変わっていない」「名義は変わったのに代金が支払われていない」といった事態が実際に多く発生しています。
特に個人間売買では、不動産会社や金融機関といった第三者のチェックが入らないため、こうしたリスクが顕在化しやすい傾向にあります。信頼関係に基づく取引であっても、代金と登記は必ず“同時に”行うことが、円滑かつ安全な取引の鉄則です。
なぜ「同時履行」が必要なのか?
不動産の取引は、単純な物品の売買とは異なり、法的・登記的な処理が必要となります。不動産の「所有者」として法的に認められるには、実際にお金を払ったかどうかではなく、「登記簿上の名義」が移っているかどうかがすべてです。したがって、買主としては、代金を支払った直後に確実に名義が自分に移ることを求めますし、売主側としても、名義を移す前に確実に全額が支払われることを確認しておく必要があります。
この「同時履行」の原則を確実に守るためには、専門家による調整や段取りが非常に重要です。通常の不動産取引では、司法書士が立ち会って、買主が代金を支払ったことを確認した直後に、登記申請を行うという流れが一般的です。これにより、どちらか一方に損が生じるリスクを最小限に抑えることができます。
実務上の典型的な流れ
個人間の不動産売買でも、安全を確保するためには、以下のような流れを採用することが推奨されます:
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売買契約の締結
まず、契約書を作成し、代金や引渡し日などの重要事項を文書で確認し合います。このとき、手付金を支払うことが一般的です(全体の1割程度が目安)。 -
引渡し日の調整と司法書士の選任
引渡しの日(=所有権移転と代金決済を同時に行う日)を定め、その日に司法書士が立ち会うことを事前に決めておきます。個人間売買の場合は、どちらが司法書士を手配するか、報酬をどう分担するかも明確にしておくことが大切です。 -
当日:代金支払いと同時に登記申請
当日、買主が残代金を支払い、売主が登記に必要な書類(登記識別情報、印鑑証明書、委任状など)を司法書士に提出し、その場で所有権移転登記の申請が行われます。司法書士が申請書を法務局に提出した時点で、法律上の効力が発生します。 -
登記完了後、登記簿の名義変更を確認
法務局での処理が完了した後、登記完了証や新しい登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、名義がきちんと買主に変わっていることを確認します。
個人間売買で注意すべき具体的なケース
個人同士で「ざっくりとした約束」のもとで進めた結果、トラブルに発展する例は少なくありません。以下はその一部です:
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代金を銀行振込で支払ったが、売主が登記書類の準備をしておらず、登記申請が数週間遅れた
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売主が不在(高齢や遠方在住)で、引渡し当日に必要書類が用意されていなかった
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司法書士を介さずに登記手続きを自力で行おうとしたが、書類不備や不動産情報の誤記で却下された
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売主が住宅ローンを完済しておらず、抵当権が残ったまま売却されてしまった
このような事態を防ぐためにも、登記の専門家である司法書士が関与することは非常に有効です。司法書士は、登記書類の作成だけでなく、登記内容の正確性確認、売買スケジュールの調整、残代金の支払い方法のチェックなど、取引全体の安全性を担保する役割を果たします。
また、司法書士は宅地建物取引士の資格を併せ持つことで、不動産取引の実務にも精通しており、複雑な案件(たとえば相続や共有名義が絡む売買)にも柔軟に対応できます。個人間で行う場合こそ、専門的な視点が心強い支えとなるでしょう。
③ 税金と登記の落とし穴に注意
不動産の個人間売買では、契約や支払いに目が向きがちですが、**忘れてはならない重要なポイントが「税金」と「登記手続き」**です。これらを正しく理解しないまま進めてしまうと、後から予期しない税金を課されたり、登記の不備によって法的トラブルに発展したりする恐れがあります。
特に専門家が間に入らない個人同士の取引では、税務・登記の知識不足が原因で、のちのち「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースが後を絶ちません。
ここでは、個人間売買において特に注意すべき税金や登記のポイントを、司法書士兼宅地建物取引士の視点から具体的に解説していきます。
■ 登録免許税の存在を忘れずに
不動産の所有権を買主に移転するには、法務局で「所有権移転登記」を行う必要があります。この登記には必ず登録免許税という税金がかかります。
登録免許税の金額は、「不動産の固定資産税評価額 × 2%」が原則です。たとえば、評価額が1,000万円の土地を購入する場合、登録免許税は20万円となります。この金額は登記の際に必要で、法務局に収入印紙として納める必要があります。
この税金は、不動産の価格ではなく、市区町村が公表している「固定資産税評価額」に基づいて計算される点にも注意が必要です。個人間で「格安で売買したから税金も安いだろう」と思っていると、実際の評価額に基づいた登録免許税が発生し、「思った以上に高かった」と驚かれる方も多くいらっしゃいます。
また、場合によっては税率の軽減措置が適用されることもありますが、個人間売買ではこのような特例に気づかず、本来より多く税金を払ってしまうケースも少なくありません。税務に精通した司法書士であれば、軽減措置の有無を確認し、不要な納税を防ぐことができます。
■ 譲渡所得税の申告と注意点
売主にとって忘れてはならないのが、「譲渡所得税」の問題です。譲渡所得税とは、不動産の売却によって得た利益(譲渡益)に対して課される所得税と住民税のことです。
計算方法は以下の通りです:
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費+譲渡費用)
取得費とは、その不動産を買ったときの価格や、購入時に支払った仲介手数料・登録免許税などを含みます。譲渡費用とは、売却時にかかった司法書士報酬や測量費用などです。
もし不動産を取得してから5年超が経過していれば「長期譲渡所得」として税率は低くなりますが、短期間で売却した場合は「短期譲渡所得」として高い税率(約39%)が課されることもあります。
特に親族間や相続人間の売買では、「実質的には譲渡ではない」と誤解して申告を怠る例が目立ちますが、税務署は実際の金銭授受や契約書の内容をもとに「売買」と判断するため、申告漏れはペナルティ(加算税や延滞税)の対象になります。
また、実際には利益が出ていなくても、「取得費が不明」であるために利益とみなされ、課税されてしまうこともあります。このような問題は、事前に司法書士や税理士に相談しておけば防げるケースがほとんどです。
■ 不動産取得税の後からの通知に要注意
買主側が特に注意したいのが「不動産取得税」です。この税金は、登記後しばらくしてから都道府県から納税通知書が送られてくるため、忘れた頃に突然数十万円の請求が届くという事例が多発しています。
不動産取得税の税額も、登録免許税と同様に、固定資産税評価額に対して計算されます。税率は原則として4%ですが、住宅用地や一定の住宅であれば軽減措置が適用される可能性もあります。ただし、そのためには事前に申請書類の提出や条件の確認が必要で、手続きや時期を誤ると軽減措置が受けられなくなる場合もあるため注意が必要です。
また、「親から家を買っただけだから贈与のようなものだろう」と考えていたら、税務上は立派な売買とみなされ、取得税が課税されてしまったという例もあります。親族間売買でも、登記を伴えば取得税は原則課税対象となります。
■ 登記の不備が招く深刻なトラブル
不動産の登記は、正確に行われていなければ、後々の売却・相続・担保設定などに大きな支障をきたします。
たとえば、以下のような不備があると、深刻なトラブルに発展する可能性があります:
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所有権移転登記が未了のまま売主が亡くなってしまい、相続人が多数関与する事態に
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実際の土地の面積や境界と、登記簿上の記載が一致しておらず、売却時に測量が必要になる
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建物の表示登記がされておらず、住宅ローンが組めなくなる
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共有名義のまま片方の意思だけで売却し、後日無効を主張される
こうした事例の多くは、「登記の知識があれば防げたミス」ばかりです。特に個人間取引では、「費用を節約するために登記も自分でやろう」と考えがちですが、ミスがあれば修正に何倍もの手間と費用がかかる可能性もあるのです。
■ 専門家に相談することが“最大の節約”になる
税金や登記の知識は、専門家でなければ見落としてしまうような細かい要件が多数あります。ネット情報や知人の話だけを頼りに進めると、最初はうまくいったように見えても、数年後に税務署から通知が来たり、登記が法的に無効とされてしまったりと、後悔することになりかねません。
そうしたリスクを避けるためにも、司法書士兼宅地建物取引士のような「不動産に特化した法律家」のサポートを受けることは、結果的には最も安心で、かつコストを抑える近道でもあります。
まとめ
個人間で行う不動産売買は、仲介手数料を節約できたり、気心の知れた相手とスムーズに交渉できたりと、一定のメリットがあります。しかしその反面、不動産取引における法的・税務的な知識が欠けていると、大きな落とし穴にはまる危険性もはらんでいます。
特に、親族や友人といった信頼関係のある相手との取引では、「まさかそんなことで揉めるなんて思っていなかった」という声が後を絶ちません。信頼しているからこそ契約書を交わさなかった、代金を先に払ってしまった、登記は後回しにした、税金のことは考えていなかった——そういった油断や認識の甘さが、後々大きなトラブルへとつながってしまうのです。
この記事では、そうしたリスクを回避し、真に安全で後悔のない個人間売買を行うためのポイントを、司法書士兼宅地建物取引士の視点からお伝えしてきました。以下に、その要点を改めて整理してみましょう:
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契約書の重要性:信頼関係があるからこそ、言った言わないのトラブルを防ぐために契約書は必須。内容は明確かつ具体的に記すことが重要です。
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支払いと登記の同時履行:売買代金の支払いと所有権移転登記は、どちらが先でもリスクが発生するため、司法書士の立会いのもとで「同時に」行うのが安全です。
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税金と登記の知識:登録免許税、不動産取得税、譲渡所得税などの知識は不可欠。不備や申告漏れがあると、思わぬ追徴課税や登記無効のリスクもあります。
これらの問題は、どれも**「きちんと備えておけば防げること」**ばかりです。そしてその備えには、書類を整え、流れを段取りし、税務や登記の要件を確認するという、専門的な知識と経験が求められます。
不動産というのは、金額的にも、法的にも、人生の中で最も大きな取引のひとつです。その大切な資産の移動において、後悔をしないためには、「わからないことはわからないままにしない」「面倒なことほど最初に対処しておく」という姿勢が何より大切です。
もし現在、親族間や知人との間で不動産の売買を検討されている方がいらっしゃるのであれば、この記事の内容をきっかけに、今一度その手続きの全体像とリスクを見直してみてください。そして、少しでも不安な点や疑問点がある場合には、登記と不動産取引の両方に強い司法書士に一度相談してみることをおすすめします。
「無事に終わって本当に良かった」と安心できるような個人間売買を実現するために、正しい知識と確かな手続きをもって臨みましょう。