司法書士が経験した銀行での相続実務【名古屋のごとう司法書士事務所】
2020/06/08
相続は簡単なようで難しい!?
最近、ある銀行の支店長さんと話をしました。
私が預金の相続手続きで支店を訪れて、相続手続きが完了するのを待っていると、支店長が話しかけてきました。
今回の相続では、相続人が兄弟姉妹でした。しかも、相続人は12人です。
昔は兄弟が多かったとはいえ、相続人が結構多い部類の相続です。
支店長の話では、最近兄弟姉妹が相続人となる預金の相続手続きがあり、相続人の一部の人が被相続人のために費用を立て替えていたので払い戻しをして精算したかったようだが、相続人全員の印鑑がないので無理な事案だったそうです。
想像するに、他の相続人とは疎遠で交流がないので、気軽に印鑑をもらうことはできなかったのではないかと思います。どのように遺産分割を進めればよいのかわからなかったのでしょう。戸籍などは何かを調べて取得できたかもしれませんが、肝心の遺産分割については、法律の知識が必要ですので、なかなか難しいのだと思います。
実は、兄弟姉妹が相続人となるケースはこのような事態になることが少なくありません。
配偶者や子がいない本人にとって、兄弟姉妹が何かあった時のよりどころになっているのです。きちんと遺言を残したり、生前にうまく準備をしていれば良いのですが、なかなか用意周到に準備ができる人は多くありません。
今回は、名古屋の司法書士が、頼れる人がいない場合に相続をどう考えるべきかについて考えてみたいと思います。
1 老後の過ごし方
日本人の平均寿命は延びる一方です。
仕事をリタイヤした後の生活が大切だと言われています。体が元気なうちは、どこに住んで、どのような生活を送るのか。
名古屋であれば、地下鉄の徒歩10分以内のマンションなどを選ばれる人も増えています。地方で車が当たり前に必要な生活より、町中で回りにスーパーやドラッグストア、病院などすべてが揃っている便利な生活を好む傾向があるようです。地方でのんびり過ごすだけでは、すぐに飽きてしまい、適度な刺激がある方が生活に張りが出て、生きがいのある生活につながるということでしょうか。
実際、名古屋のマンション売買でも、老後の生活として購入される方はお見えです。
老後のことで、若いうちには相続がつかなかったことに食費があるかもしれません。老後は食事の量も減り、意外に食費がかからなかったりします。若い時と同じ水準ですべての生活費がかかるわけではないので注意が必要です。
私自身、成年後見人として高齢の方の生活をサポートしてきましたが、贅沢をしないで生活をする分には、本当に話題になった「3000万円」が必要なのかは疑問でした。ただし、定期的な旅行や趣味をしたり、仕事を全くしない生活をしたい人はある程度の預金が必要だと思います。
やはり、自分のライフスタイルをシュミレーションしてみることが一番です。住居も、持ち家なのか賃貸なのか、老後は別の場所に引っ越すのかなど、人によって老後に必要な資金は異なり、一律いくらといえるものではないと思います。
2 判断の能力が衰えた場合のこと
体も頭も元気なうちは、お金の心配をしながら、楽しい生活ができます。
一方、いざ、体調や判断能力が衰えてしまうときも考えておきたいことです。
人間、ぽっくりとはあの世にくことはできないものです。ほとんどの人は、亡くなる数年間は、自宅(在宅)や施設などで過ごす生活があると思います。そうなった時に、誰に面倒を見てほしいのか、どのような場所で過ごしたいのか。
これは、ことが起こってからでは思い通りにならないことが多いと思います。あらかじめ、準備をしなくていけません。
具体的には、任意後見契約や民事信託契約などが考えられます。その他にも、信頼できる人にお金の管理などを任意で任せるなどのやり方はありますが、トラブルになる可能性があるので十分注意が必要です(実際は世の中の多くのケースで、このように運用されているのかもしれません)。
相続人の有無や任せる財産の大きさなど亡くなった後から問題になることもあります。場合によっては、任せる人にも迷惑をかけることになるかもしれません。財産を流用したなどあらぬ疑いをかけられては大変です。
2-1 任意後見契約
任意後見とは、法定後見と対比される言葉ですが、判断能力があるうちに、判断能力が衰えたときのことをあらかじめ決めておく制度です。認知症になったら、誰に面倒を見てほしいのか、財産管理を誰に任せたいのか、施設選びの基準など自分の想いを実現してくれる人を自分で決めておくことができます。
一方、法定後見とは、既に認知症等で判断能力が衰えてしまった場合に、裁判所が成年後見人を選んでその人に財産管理や施設の入所契約などをさせるものです。誰が成年後見人になるかは裁判所に決定権があるので本人や親族の希望通りにならないこともあります。
自己決定権の尊重という面では、やはり任意後見を利用した方がよいでしょう。
任意後見人人は、親族などもなることができます。司法書士や弁護士などの専門職だけがなるものではありません。親族が法律の裏付けがある財産管理や生活面のサポートをすることができるため、スムーズな老後の生活を実現できます。
2-2 民事信託
民事信託とは、自分の財産を誰かに託すことで、託された人が本人に代わって管理や運用ができる制度です。この民事信託は、財産に関することを託すことができますが、本人の生活面のサポートはできません。そのようなことが必要であれば、やはり、任意後見を併用することになります。
また、民事信託は、任意後見とは違い、元気なうちから(契約後すぐに)効力が発生します。例えば、自分が管理していたマンション1棟を息子に任せる場合に、親子間で民事信託契約をすると、息子が親に代わって賃貸借契約をしたり、大規模修繕の契約をしたりできます。任意後見は、あくまで判断能力が衰えてから効力が生まれるものです。
このように相続前後の対策は、いろいろな手法を併用して総合的に検討することで、満足のいく対策ができます。
3 財産を誰に承継させるのか
自分が亡くなった後に誰に相続財産を承継させるのか。これを自分で決めておく方法は、遺言です。
もしくは、生前の元気なうちに財産を移転させておくことです。しかし、無償で財産を移せば、金額ややり方によっては贈与税の対象になるので注意しましょう。
さて、この遺言には、主に自分で書いて完成させる自筆証書遺言と公証役場で公証人の面前で作成する公正証書遺言があります。
どちらもきちんと作成をすれば、遺言の効力は変わりません。公正証書遺言が自筆証書遺言に勝るというわけではありません。遺言で優劣があるとすれば、作成した時期です。一番最後の遺言が有効なものとなります。亡くなるときに一番近い時期に作成されているので、本人の意思を一番反映していると思われるからです。
兄弟姉妹が相続人になるような場合では、一人で自筆証書遺言を作成するのは不安でしょうから、作成するなら公正証書う遺言で作成をする事をお勧めします。
もし、遺言がない場合は、法定相続人が法定相続分で承継します。相続開始後、相続人で遺産分割をしたりして遺産承継をするでしょう。兄弟姉妹もいない場合は、相続人がいませんから、最終的には相続財産は国にいきます。
相続財産を残す人やあげる人がいないような場合は、自分で生前に使ってしまったり、分けてしまうのが一番ですが、手元に財産を少しは残さないと不安でしょうから、遺言で残った財産をお世話になった団体や慈善団体等に寄付をする人もいます。国に帰属して使いみちもわからなくなるぐらいなら、困っている人やお世話になった団体に有効に使ってほしいと思うのは当然のことです。
最後に
以上、名古屋の司法書士が、相続人が兄弟姉妹の場合など、周りに頼れる人が少ない場合について、解説しました。
最近の相続相談では、自分が相続人で苦労したから、自分の相続では誰かに迷惑や負担をかけたくないという理由でしっかりと相続の準備をされる方が増えています。このような方は、周りの知り合いや友人の相続の話を聞いているのかもしれません。事前に準備をする事で、相続財産を承継する人もスムーズに遺産を受け取ることができます。
一方、高齢者の財産のトラブルも増えています。本人の勘違いもありますが、実際に高齢者が騙されたり財産を盗まれる話はあります。施設職員や訪問介護の業者のほとんどは真面目にやっていると思いますが、一部の悪い人がこれまでいたのも事実です。人は魔が差すこともあり、そう単純なものではないのでしょう。
信頼できる人に任せたり、託すことで安心が得られるのであれば、やはりしっかりと準備をする事が大切になります。